第40話 『ティアランピア』へ
以前バッカスが言ってたハヴィエール卿の計らいの話が関係しているんだろう。とにかくこれで『ティアランピア』に入れそうだ。
俺も二十年前にはそこで住んでいたが、なんといってもこの二十年で外見がガラリと変わったからな。俺のことを一目でわかる奴はそうそういない、それこそサリアと一緒に来れればいいだが。
「ゴーイチ殿。もしかして、さっき町でやったのと同じ方法で『ティアランピア』へ?」
「ほかに方法はないだろ……それとも怖いのか?」
「い、いえ……大丈夫です。なんとか耐えてみせます」
大丈夫だろうか。不安になって来た。超高速で空を飛ぶんだ、高齢な人間で試すのは初めてだ。
「とにかく振り落とされないように、しっかりロープを握っていろ……って、待てよ?」
「どうしたの?」
「……シモーヌも行くのか?」
「当たり前じゃない、同じパーティーなんでしょ? ついていくわ」
「……駄目だ」
「え? ちょっと待って、なんでここにきて?」
「人数オーバーだから。三人以上は……無理だ」
「人数オーバーって……えぇ、まさか!?」
そうだ。大事なことを忘れてた、俺の〈場外ホームラン〉は人数の制限がある。それ以上の人数だと、多分届かない。
「いや、正確に言えばより重い鉄球なら三人でも可能なんだ。今持っているこれだと、小さすぎる」
「じゃあ、もっと重い鉄球を探しましょう!」
「そんな簡単に見つかるわけないだろ。第一、探すのに時間がかかる……」
「もう……じゃあ、どうすればいいのよ?」
「だから俺とバッカスで『ティアランピア』に行く。その後ラズリーに乗ってお前を迎えに行く。それでいいだろ?」
「……わかったわ」
なんとか理解してくれたか。そうと決まれば、まずは〈軌道シミュレーション〉で、『ティアランピア』までの弾道を計算する必要があるな。
「あぁ、待ってください!」
突然バッカスが大声を出した。
「大事なことでした! アレを持っていかなければ!」
「アレ? 何のことだ?」
「特効薬ですよ! ハヴィエール卿の容態を回復させねば……」
「特効薬? まさか……ハヴィエール卿が“魔怨”に?」
「はい。ヤドゥークリ草がないと特効薬が作れません。恐らく『ティアランピア』にもないでしょうから。ゴーイチ殿、ヤドゥークリ草は?」
「……それは……」
ギルドに鑑定に出したのだ。いや、一部はもちろんセリナに渡したが、そのセリナも誘拐されてしまった。それを悟ったのか、バッカスの顔も暗くなった。
「おぉ、なんということ……せっかくあれだけ集めたのに……」
「落ち込むな! 今から全速力でギルドに戻れば、まだあるはず!」
寄り道になるとはな。だが特効薬も大事だ。そうと決まれば、まずは『キースラーの町』へ。
「待ちなさい!」
シモーヌが突然呼び止めた。何を思ったのか、腰にぶら下げていたポーチの中を手で探った。すると、思いがけないものを取り出した。
「ヤドゥークリ草!? お前……持ってたのか?」
「何言ってんのよ? あなたが渡したんでしょ」
確かにそうだ。俺がギルドでヤドゥークリ草を渡した。まさかまだ持っていたなんて。
「こんなこともあろうかと、って言いたくないけど、もしその……誰かが“魔怨”に感染したらって思ってね」
「備えあれば憂いなし、だな。見直したぞ、シモーヌ」
誰かとパーティーを組んでこれほど助かったと思える経験はないかもしれない、あとでシモーヌにはたっぷりとお礼をしなくては。
確か、シモーヌはサリアに弟子入りを懇願していたから。これはなおざりにできない案件になったな。
「お前がサリアの弟子入りになれるよう、全力でサポートするぜ」
「え? そ、そんな……私は当然のことをしたまでで……」
「何をおっしゃいます? お手柄ですぞ!」
「……ありがとう……」
なにはともあれ、これで特効薬は問題なく作れそうだ。〈軌道シミュレーション〉で弾道も計算できた。
無事に『ティアランピア』までの地図と弾道は表示された。俺だけが見える地図によれば、どうやら百年前と位置も場所も変わっていない。よし、いけるぞ。
「待たせたな。じゃあ、バッカス。外に出るぞ、準備はいいか?」
「は、はい……いつでも……大丈夫です!」
「気を付けてね。エルフ達は基本人間に好意的な種族じゃないから」
ヤドゥークリ草を渡しながらシモーヌが言った。言われなくてもわかっている。それは二十年前も経験した。初めて訪れた異世界で、しかも人間が一人も住んでいないエルフの町だ。俺だけは完全に浮いていた。周りからあれほど白い目で見られた経験はなかった。
本当ならもっと平和なタイミングで戻りたかった、もちろんセリナやサリアと一緒に。俺を知っていそうなエルフと言えばサリアの肉親、兄や祖父くらいだが、果たして俺を覚えているだろうか。
不安な気持ちが拭えない。でもこんなことで気が滅入るようじゃ、史上最強のメジャーリーガーの名が泣くぜ。一刻も早くヤドゥークリ草を届けて、そしてセリナを救出してやる。
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