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史上最強のメジャーリーガーは引退後は二度目の異世界で自由なスローライフを送りたい  作者: 葵彗星


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第35話 公爵令嬢サリア・フォン・ハヴィエール

 聞き覚えのない魔物の名前が出た。サリアが言うにはフォレストガーディアンは、魔物というより精霊に近い種族らしい。狼に近い見た目で、森や山の守護獣として、この地域一帯を治めている主だそうだ。


「俺が感じたのは、間違いなく魔物の気配だ。しかもかなり巨大な……精霊って本当か?」

「本当よ。多分この子は……操られているの」

「なに? 精霊を操って魔物化しているのか?」

「多分ね……かなり強力な魔道士の仕業だと思う。さっき脳内を少し探ったわ」


 そういえばサリアは特殊な思念波が使える魔道士だったな。その思念波で魔物の心や考えも探っていたのを思い出した。


「本来精霊は人間に対して害意をむける存在じゃない、ましてや魔物の群れを率いるだなんて……」

「なるほど。要はその操っている張本人を倒せば、問題ないわけだ」

「そうだけど。そんな簡単に見つかると思って?」

「ぐがぁあああ!!」


 しばらくよろよろ歩いていたフォレストガーディアンは、一気に走り込んできた。しかし動きがすぐに止まった。どうやらサリアが魔法で金縛りにさせている。


「ぐぐ……がぁあああ!!」

「くっ……なんて強い抵抗力!」

「大丈夫か?」

「気にしないで、それよりその張本人とやら、すぐに見つけないと」

「それは俺に任せろ。〈ハイジャンプ〉!」


 山全体が見渡せる高さまで大ジャンプした。

 強力なフォレストガーディアンを操るには、ある程度距離が近くないと無理なはず。俺の予想は当たった。

 前方約五百メートル先に、小さな洞穴を発見した。気配を消しているな。だが俺のスキル〈遠視〉で見え見えだ。


 赤紫色のローブを着た怪しげな魔道士だ。

 まさかと思った。鍾乳洞で感じた気配と似ている。いや、同じじゃないか。

 なんにせよ、この騒動を巻き起こした張本人は奴だろう。仕留めないとな。拾っていた小石を全部魔道士めがけて投じた。


「スキル〈遠球〉!」


 このスキルを用いれば俺の投球は最大3キロメートルまで延びる。あの魔道士との距離は約五百メートル、普通の投球じゃ重力の効果で落下する。飛距離を少しでも伸ばすには〈遠球〉が必要だ。


 バアアアアアアン!!


 どうやら命中したようだ。威力なんて調整していなかったから、衝突の衝撃で爆発が起きるのを見届けて俺は着地した。


「倒したぞ。そっちはどうだ?」

「ありがとう、こっちもうまくいきそうよ」

「ん? こいつは……」

「……ぐぅるるる……」


 さっきよりもおとなしくなってる。操っていた魔道士の邪気がすっかり抜けたようだ、元々は精霊の種族だったから人間への敵意などないはず。


「いい子ね……もう大丈夫よ……」

「……がう……」


 サリアが近づいて額をなでた。フォレストガーディアンをまるでペットのように手懐けるとは、さすがサリアだ。

 さっきまで群れをなしていたナイトウルフたちも山奥へ引き返していく。フォレストガーディアンもそれに続いた。これで一件落着のようだな。


「あぁ、よかった。異変を感じて様子を見に来たらこれだもの、あなたが来なかったら、今頃あの村は襲われてたわね」

「心配するな、村の民たちは避難していたよ」

「そうだったの。あ! こんなことしてる場合じゃなかった。セリナを……」

「ゴーイチー!!」


 俺を呼ぶ声が聞こえて振り向くと、シモーヌが駆けつけてきた。


「ゴーイチ、大丈夫だった? ケガはない?」

「この見た目でケガなんかしてると思うか?」

「あぁ……そうね。はは、やっぱり心配して損したわ」

「お前こそ、村の方は大丈夫だったか?」

「えぇ。誰か様がナイトウルフをありったけ討伐してくれたから村への侵入被害はゼロよ! 本当にありが……」


 そう言いかけたとたんシモーヌが何かに気付いて立ち止まった。そういえば初対面かな。


「あぁ、紹介するよ……俺の友人だ……名前は……」

「サリア様!?」


 どうやら知っていたようだな。すっかりシモーヌはかしこまった。


「まさか……あのサリア令嬢がこのような場所で……」

「エルフの公爵令嬢がこんな場所で戦闘ごっこしているのはおかしいかしら?」

「……いえ、そのようなことは……」

「ゴーイチ、あなたの知り合いなの?」

「あ、失礼しました、私はシモーヌ・ウォーレッタ、『竜の狩人』の魔道士です」

「『竜の狩人』?」

「あぁ、それは……新しいパーティーの名前だよ」

「パーティー……もしかして、あなた達……?」


 いかん。ここで俺とシモーヌがパーティーを組んでいると知られたら、へんに誤解されそうだ。なんとか話題を変えよう。


「そ、それより、サリア! セリナを探してるんじゃないか?」

「そうだけど……っていうか、もう妹に会ったの!?」

「あぁ……一昨日帰還した際に、たまたま森で遭遇したのさ。鍾乳洞へ行っていたらしい」

「なんてこと……一人で無茶するなって、あれほど言ったのに」

「心配するな。ヤドゥークリ草は俺が採取しておいたよ」

「それはよかった……あなたにはなんてお礼を言ったらいいか……」


 サリアはどうやらヤドゥークリ草目当てでここまで来ていたらしい。その帰り道にたまたま今回の騒動に出くわしたんだ。


「セリナなら、今頃『キースラーの町』の地下の転移魔法陣から『ティアランピア』へ戻ったはずだ」

「なんですって!? じゃあ、入れ違いじゃないの! 知らせてくれてありがとう」

「あの……サリア様!」


 サリアが向きを変えて歩こうとしたその時、シモーヌが声を掛けた。一体なにごとだ。


「なに? 言っておくけど急いでるの、手短に話して!」

「……すみません、やっぱりなんでもありません……」

「もう、用もないのに話しかけないで! ゴーイチ、あなたも急ぐのよ!」


 サリアは機嫌を悪くしてこの場を去った。シモーヌはうな垂れた。


「あぁ、もう……なんで言えなかったのよ」

「おい、なんだよ。サリアに何か相談したいのか?」

「えぇ……そうなんだけど。やっぱり身分が違いすぎて……」


 まぁ無理もない。本来、人間の魔道士がエルフの、しかも貴族の公爵令嬢の人間に相談なんてできたもんじゃないよな。


「……ゴーイチ……あなた……」


 シモーヌが俺を見上げると、何かを悟ったかのように目を見開いた。


「あなた、随分サリア様と仲良く話してたわね」

「それは……いけないかな?」

「いえ、そうじゃなくて……サリア様とはどんな関係なの?」

「どんな関係って……」

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