第32話 ナイトウルフの群れ
「よし、着いたな」
俺達は無事に『ルセンの村』に着いた。一分もかからなかった。だいたい三十秒くらいか、少しパワーを上げすぎたかな。
まぁ、早いに越したことはない。シモーヌも振り落とされないでよかった。だけどシモーヌはまだ何が起きたのかわからない様子だ。
「……一体何がどうなったの? さっきまで宿の前にいたのに……転移魔法?」
「転移魔法じゃない。飛んでいくって言っただろ。まぁ簡単に説明すると……これのおかげさ」
俺は鉄球を手に持ちあげて簡単に説明した。
「この鉄球を〈フルスイング〉で飛ばしたんだ。ロープで固定して、そのロープで俺達の体もつなげば鉄球が飛ぶと同時に、俺達も鉄球に引っ張られて空を飛んでいける、という寸法さ」
「……はぁ……」
かなりざっくり説明したけど、まだシモーヌはピンときてないようだ。仕方ない。今はまだシモーヌの体にロープが繋がっている。
口で説明するより、見せた方が早い。俺は鉄球を近くの木の幹に投げた。
「うわわわ! ちょっと……なに!?」
「こんな感じさ。俺が鉄球を投げたら、お前の体も引っ張られたろ?」
「ほ、本当ね……確かに引っ張られた。凄い!」
「この鉄球を『ルセンの村』まで飛ばせば、俺達もそこまで飛んでいけるってわけさ」
ついでに〈弾道シミュレーション〉の説明もした。〈弾道シミュレーション〉とは、飛ばした鉄球の軌道の距離や方角を事前に計算できるスキルだ。地図が表示され、目的地までの軌道を設定する。さらに〈フルスイング〉のパワーを調整すれば、その目的地まで鉄球が飛んでいけるようになる。
このスキルは俺が地球に戻ったあとで会得できた。野球をきわめて暇だった俺は、シーズンオフはよく海外旅行にも足を運んだ。この時、偶然編み出したんだ。
きっかけは、昔見たテレビアニメだ。ある格闘家が木の丸太を投げ、その丸太の上に乗って飛んでいったのを見て、俺も似たようなことができないか考えた。
俺が考えたのは木の丸太じゃなく弾丸だ。俺はもちろん野球が得意で、ピッチャーの投球を場外ホームランにするのは朝飯前だった。つまり木の丸太を弾丸に置き換えれば、同じようなことができるんじゃないか。
俺の推測はピタリだった。普通に飛ばしたんじゃ飛距離が足りないから、スキル〈フルスイング〉でどこまでも遠くに飛ばせるパワーで大きめの弾丸を飛ばし、その弾丸と俺の体をロープで結んで固定させれば、案の定俺は弾丸に引っ張られ飛ぶことができた。弾丸と言っても軽くて小さいのでは話にならないがな、ある程度の重さと大きさがないと、途中で落ちてしまう。
このスキルを俺は〈場外ホームラン〉と名付けた。いや、厳密にいえばスキルじゃないだろう。単に〈フルスイング〉で球体を飛ばしているに過ぎないから。まぁ、回りくどいから今後は〈場外ホームラン〉と呼ぶことにした。
「本当になんでもありね。あなたの〈フルスイング〉って……はは……」
「わおおおおおおん!!」
「おっといかん。奴らが来るぞ!」
ついうっかり長話した。まだこの村まで来ることはないと思うが、ナイトウルフの群れはおそらくすぐ近くまで来ている。
村民たちは大丈夫か、と思ったら誰もいない。いや、避難したのか。
「本当にナイトウルフの遠吠えね。にしてもおかしいわ、なんで夜行性の奴らがこんな朝早くに行動するのよ?」
「それについては後で考えよう。その前に、〈遠視〉のスキルで奴らの場所を特定する」
村の遥か北の方角に山が見える。距離的に10kmくらいか、すぐに異変に気付いた。赤い瞳に黒い体毛の狼の群れがうようよと木々の間を歩いてこっちに向かっている。しかも尋常じゃない数だ。
「……奴らの群れだな」
「な、なんて数なの!? 十、二十……ひゃく!?」
「多分……五百は下らない」
「嘘でしょ? 今まで遭遇した群れでも、せいぜい百頭が最大なのに……」
「怖いのか? たかがナイトウルフの群れだろ?」
「ごめんなさい。でも油断しないで、鍾乳洞のレッサーリザードみたいに強化されてるかも」
なるほど、それを忘れてた。確かに強化された上にあの数の多さじゃ脅威には違いない。
「おぉ、あなた達は!?」
どこからか男の声が聞こえた。見ると、すぐ近くの一軒家の裏手から中年の男が出てきた。
「この村の人間か? まだ避難してないのか?」
「私がこの村の村長でして……避難に遅れた者はいないかと探しておりました。それよりあなた方は?」
「『キースラーの町』で速報が入って来たのよ。私は魔道士のシモーヌ、こっちは狩人のゴーイチ」
「『キースラーの町』から? まさか……応援を要請したのは確かですが、もう来られるとは……」
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