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史上最強のメジャーリーガーは引退後は二度目の異世界で自由なスローライフを送りたい  作者: 葵彗星


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第31話 場外ホームラン!

 バッカスが宿の裏手に回った。


「なにしてんの? 私達も馬を借りないと……」

「馬なんて必要ないさ。もっと速く着ける方法がある」

「あなたは〈俊足〉があるけど、私には使えないの。まさか、私を置いていくつもり? パーティーなんでしょ?」

「〈俊足〉なんかより、もっと速くて確実な方法さ」

「え? まだあるというの?」

「ゴーイチ殿、お持ちしました」

「おぉ、ありがとう」

「なにそれ? 鉄球に……ロープ?」


 バッカスが倉庫から持ってきたのは俺の注文通りの品だ。直径十センチくらいの鉄球と長さ二メートル以上の丈夫なロープ。仕事が早くて助かる。

 鉄球はややデコボコしているが、関係ない。大きさと重さ、硬さは十分だ。


「なぁ、シモーヌ。一つ聞くが、あいつらに勝ちたいか?」

「なに言ってんのよ!? 当り前じゃない、だから急がないと!!」

「よし、なら今から俺が言う通りに行動しろ!」

「え? わ、わかったわ……」


 シモーヌは俺が言われた通りに行動した。簡単に言うと、体にロープを巻き付け固く結ばせた。俺はそれを見届けて、ロープの片側を鉄球に巻き付け結んだ。


 最後にシモーヌ側のロープの余った部分を、俺の左手首に巻き付け結ばせる。あとは軌道の計算だ。


「スキル〈弾道シミュレーション〉!」

「だ、弾道……シミュ?」


 これでまず軌道をシミュレーションする。目標地点が表示された俺にしか見えない地図が目の前に出てきた。

 なるほど、確かに村までの距離と方角は想定通りだ。〈フルスイング〉のパワーも調整して、準備は万端だ。


「ねぇ、こんなことして何になるのよ! もう五分以上は経ったわ。速く行かないと!」

「落ち着け。今から約一分で村に行けるさ」

「い、一分で……? 冗談でしょ、いくら〈俊足〉でも、そこまでの速度は」

「〈俊足〉じゃない。飛んでいくんだ」

「と、飛ぶ……?」


 シモーヌが目を丸くした。


「あなた……空を飛ぶスキルも持っているの?」

「俺が飛ぶんじゃない。こいつが飛ぶんだ」


 俺は持っている鉄球を指差した。シモーヌはいぶかしんでいる。


「……言ってることがさっぱりわからないわ」

「まぁ、とにかく俺を信じろ。しっかりロープを握ってろ!」

「……こう?」

「もっと強くだ。念のため、〈エンハンス〉で握力を強化しろ」

「……わかった」

「よし……」


 シモーヌが魔道士でよかった。

 その時、宿からセリナが出てきた。俺の行動が気になってるようだな、俺は目で「大丈夫だ」と合図した。


「じゃあ、行くぞ! 〈フルスイング〉!」


 俺は鉄球を棍棒でフルスイングした。直後、俺達は一瞬にして50kmの距離を飛んだ。



「……嘘……?」

「い、今のは……どうなったんですか?」


 宿の前で見ていたセリナとバッカスは、しばらく呆気にとられた。さっきまでそこにいたはずのゴーイチとシモーヌが消えた。

 ゴーイチが鉄球を棍棒で叩きつけたところまでは覚えている。カキーンという甲高い金属の衝突音が聞こえ、その直後に消えた。何がどうなったのかさっぱりわからない。


「あ! あれを!?」

「え? なんですか?」


 セリナが空を指差した。バッカスも指差した先を見上げる。しかし何も見えない。ただ青い空が広がるだけ。


「……何も見えませんが……」

「いえ、確かに一瞬だけ見えました。人影が飛んでいくのを」

「……まさか……ということは……」

「はい。やっぱりゴーイチさんは、空を飛べたんです!」

「そんな……信じられない……」


 バッカスは汗をハンカチで拭った。


「人が空を飛ぶとは……人生長生きするものですな」

「あれが、〈場外ホームラン〉……」

「え? なんですと!?」

「あ……いえ、なんでもないです……」


 セリナもうっかり口にしてしまった。昔、姉から言われたことを思い出した。かつて知り合った異世界から来た男の戦士の話を。


「彼はね、野球選手なの」

「や、野球……?」


 実家にあるオーブには昔の記憶が映像として記録される。そのオーブに少年時代のゴーイチの姿を姉はよく映した。


「これがとても気に入ってるの。見て」


 次の瞬間、ゴーイチが棍棒を力強く振ると甲高い金属音が響き、丸い球体が空高く飛んでいくのが見えた。

 まさに、さっきセリナ達が目にした光景と同じだった。セリナの胸は高鳴る。


「姉さん。ゴーイチさんは、さらに強くなって戻ってきました」

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