第28話 もめごと発生
突然亭主のバッカスが俺に声をかけた。
「昨日も宿に来られた女性の魔道士が面会したいと……確か……シモーヌさんでしたっけ?」
あいつ。もう来たのか。いくらなんでもこんな朝早く来ることないだろ。これからこの町を出ようかって時に、なんてタイミングだ。
「あ? もしかしてパーティー加入の話じゃないでしょうか?」
セリナも知っていたのか。なんでも昨日二人の治療を済ませた後で、シモーヌが直々に頼んでいたらしい。
「わかったよ。食事が済んでからな……玄関で待っててもらって……」
「あ、やっぱりここじゃない!!」
シモーヌめ、そそっかしい女だ。俺達が食べ終わるまで待てないのか。意気揚々と近づいて来た。
「ゴーイチも意外と早起きね。さぁ、記念すべき新パーティー『竜の狩人』の初陣よ。食事が済んだら、ギルドに行きましょうか」
「ちょっと待て。『竜の狩人』ってなんだ? それに俺は……」
「新パーティー名よ、私が命名したの。気に入った?」
「……リーダーは俺じゃなかったか?」
「あ……ごめんなさい。そうね……出しゃばったわ」
まぁ、パーティー名なんてどうでもいい。それにしても『竜の狩人』か。実はあながち間違ってない。何を隠そう、二十年前もとんでもない竜を狩ったからな。
「じゃあ、こうしましょうか。『勇者レイの再来』ってのは?」
「なに!? レイ!?」
その言葉を聞いてドキッとした。まさか正体がバレたのか。
「どうしたのよ? もしかしてこの名前も気に入らないの? あなたにピッタリじゃない、あの邪竜ディンフォースを討伐した勇者レイ様の再来って、もうこれ以上の響きはないと思うけど……」
「……そうだな……」
よかった。この様子だとまだバレてないようだ。でも、さすがにその名前はまずい。
「いや、『竜の狩人』でいいよ」
「え? そう……地味じゃない?」
「別にパーティー名にこだわりはない。好きにすればいいさ」
「そう……ありがとう。じゃあ、気を取り直してギルドに行きましょうか。あ? セリナ様、おはようございます!」
「おはようございます。あの……お二人のけがの具合は?」
「……あぁ、それは……大丈夫です、すっかり完治しました。本当に……ありがとうございました」
なんだ。気のせいか、シモーヌの様子がぎこちないな。完治したのなら、もっと喜んでいいはずなのに。
「よかったです。また何かあったら、お気軽に声をかけてくださいね」
「そ、それは……ありがたきお言葉!」
「おい、余計なことを言うな」
まったくセリナはお人好しにもほどがある。仮にも公爵家の人間じゃないか。
「あの……もしセリナ様のお気が許せば……その……」
「おい……シモーヌ?」
シモーヌが深々と頭を下げた。
「ぜひ、私達の新パーティーに加わっていただけませんか!?」
「そ、それは……」
案の定か。シモーヌの態度には目が余る。
「俺だけじゃなくセリナまで加えようとするなんて、わがままもいい加減にしろよ」
「そんなことないわ。セリナ様には、昨日も同じことを伝えていたの」
「なんだと? セリナ……本当か?」
セリナは黙って頷いた。この女、あろうことか俺だけじゃなくセリナも誘おうとしていたのか。
「その話なんですけど……その……」
「セリナ、聞く必要はないぞ。第一今から大事な用事があるんでな、お前達のわがままに付き合ってる場合じゃ……」
「シモーヌ殿!!」
今度はいきなりバッカスが割り込んできた。かなり慌てている。
「なんだよ、今取り込み中なんだ」
「いえ、それが……血相を変えた男の戦士が二人してシモーヌ殿はいないかと、いきなり入って来て……」
「嘘……もうここがバレた?」
男の戦士、しかも二人だと。そういえば今日のシモーヌ、何かおかしいなと思ったら一人だけじゃないか。シモーヌの顔色がおかしい。
「スネイルと……ローガンか?」
シモーヌが黙って頷いた。
「ごめんなさい、居留守をしてもらえないかしら?」
「え? 何言い出すんだよ?」
「お願い! 居留守をしてもらって、さすがに来るの早すぎるわ」
「わけのわからないことを言うな。あの二人なら話が早い。バッカス、呼んできてくれ」
「ちょ、ちょっと待って!」
シモーヌが慌ててバッカスを制止した。
「おい、さっきから何のつもりだ!?」
「だから、お願いよ! ここにはいないってことにして!!」
「聞く必要はないぞ。あの二人を……」
「おい、シモーヌ!! ここにいるんだろ、出てこい!!」
今度は外から怒鳴り声が聞こえた。間違いない、スネイルの声だ。
しかし、なんか様子が変だな。あの怒鳴り方は異常だ。勝手に抜け出して宿に来たのが、そんなにヤバいことなのか。
「申し訳ございません。すでにあの二人にはシモーヌ殿はここに来ていると告げてしまって……」
「そ、そんな……」
「シモーヌさん、どんな事情か説明してもらえませんか?」
「…………」
「シモーヌ!!」
ついに我慢の限界だったのか、スネイルがドアを開けて入って来た。後ろにローガンもいる。
バッカスの言う通り本当に血相を変えている。シモーヌめ、何をやらかしたんだ。
「やっぱりここにいたな! 勝手に抜け出すとは、いい度胸だ!!」
「おいおい、二人とも。ここは宿の食堂だ。ほかの客もいるし、騒ぐなら外に出てからにしてくれないか」
「ゴーイチ? なんであんたがここに? いや、そんなことはどうでもいい! 部外者は黙ってくれ、これは俺達だけの問題なんだ!」
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