第27話 衝撃の報告
ゴーイチの適性試験終了後、シモーヌのパーティーへの加入申請、報酬の引き渡しが終わり二人はギルドを後にした。
ファティマは定時が過ぎた後もカウンターの奥に居座り、後処理に追われていた。
今日は異例な事態が続いた。本来起こすはずのなかったフレイムザウルスを目覚めさせたばかりでなく、それが破壊されるとは夢にも思わなかった。
あのゴーイチとは何者なのだろう。正体も気になるが、窓の外を見たらすっかり日も暮れていた。ファティマは億劫な気分になった。また残業か。
「ファティマ、もういいぞ。帰宅しろ」
「え? マスター……いいんですか?」
エンリケから意外な声を掛けられた。
「後処理は全て俺がやっておく。今日はいろいろあったし、お前も残業続きだったからな……」
「すみません。では……お言葉に甘えて!」
こんなことは夢にも思わなかった。まさかマスターより早く帰れるとは。いろいろと今日のマスターの言動には腑に落ちない部分もあったが、それよりも早く帰れる喜びでいっぱいだった。
そんなファティマの喜々とした思いとは裏腹に、エンリケの心中は穏やかではなかった。
ファティマが帰宅し、一人執務室に戻ったエンリケは机の下の金庫の扉を開けた。そこにしまってあったゴーイチの旧メンバーカードを机の上に置いた。
そのメンバーカードを改めてじっくり眺める。最初は信じられない気持ちだった。しかし適性試験のあの戦いぶりを見て、確信した。
「奴こそ……間違いない」
エンリケは祖父から聞いた話を思い出した。邪竜ディンフォース討伐、その光景を目の当たりにしていた祖父によると、邪竜は勇者がはじき返した魔法球によって倒されたらしい。まさに、さっきの適性試験でフレイムザウルスが倒されたのと同じように。
エンリケはさらに机の引き出しの奥にあった隠しボタンを押した。壁の一部が開くと、そこには固定されたオーブがあった。オーブに近づき、エンリケは指でつついた。
「……エンリケか? こんな時間帯になんだ?」
聞こえたのは若い男の声だった。エンリケは答えた。
「夜分遅くに申し訳ありません。実は至急、陛下に伝えたい事情がありまして……」
「陛下に!? 何時だと思ってるんだ? 無礼にもほどがあるぞ!」
「無礼であることは承知であります! ですが……それほど緊急を要する事情であります!」
エンリケの差し迫った声を聴いて、ついに声の主も観念した。
「……わかった。用件だけ言え」
「はい……実は……」
そこでエンリケから伝えられたのは衝撃の内容だった。
「……以上であります」
「も、もう一度言え! 誰が戻って来たと!?」
声の主も信じられない思いで聞き返したが、エンリケは同じ人名を返した。
「ゴーイチ・モリタ、もとい邪竜ディンフォースを討伐した勇者レイでございます。証拠もあります」
*
翌朝、『花鳥の集会所』で目を覚ました俺は一階の食堂でセリナと食事をとった。
エントランスでも見た凝った彫刻の数々が食堂内のあちこちにも置かれている。相変わらず亭主の趣味はすごいな。
「もう体調の方はよくなったか?」
「はい、おかげさまで……だいぶ良くなりました」
ひとまず顔色もよくなったようだ。昨日はスネイルとローガンの治療を済ませて、先にこの宿に戻って寝ていたらしい。
俺の方も帰るのが遅くなってしまった。無事にカードを発行して報酬をいただいたのはいいものの、まさかギルドであんなに時間を費やすとは。
「食事が済んだらすぐにこの町を出るぞ。確か、セリナのいる場所は……」
「姉さんから聞いています。何度か私達の町に赴いたことはあると」
セリナの言う通り、俺は二十年前もエルフ達が住む町に行った。というか、途中からはほぼそこを拠点としていた。
エルフの町『ティアランピア』は、『キースラーの町』を出て北西に行けばある。
しかしかなり離れている。この世界の並の実力の冒険者の脚で、一週間かかる距離だ。
当時の俺には〈測定〉のスキルがなかったら正確に測れていないが、およそ二百キロメートルくらいはあるだろう。
普通ならこの町からだと馬車で行くことになる。それでも三、四日はかかる。因みにこの世界の一日は、俺の世界の一日とほぼ同じ時間だ。
しかしセリナの祖父が病気の今、悠長なことは言ってられない。
「ご心配なく、実は『ティアランピア』に一瞬で行ける方法があります」
セリナが言うにはなんとこの『キースラーの町』の地下に転移魔法陣がある隠し施設があるらしい。転移魔法陣、特殊な魔法陣が刻まれた床に乗れば一瞬で遠い場所へ転移できる魔法だ。それがこの町の地下にあるのか、初めて知った。
「でも一つ問題があって……その魔法陣、エルフ専用なんです」
エルフ専用。ということは俺は利用できないのか。
「そうか。じゃあ、セリナだけ先に戻ってろ。一刻も早くヤドゥークリ草を届けないとな」
「はい。でも……町までの案内が必要じゃありませんか? 距離もあるし」
「心配するな。一度行った場所だから、道順はある程度覚えているし、その気になったら飛んでいけばいい」
「と、飛ぶ!? ゴーイチさん、空を飛べるんですか?」
「まぁ、特殊なスキルを使うがな……」
今の俺には二十年前にはなかったとびきりのスキルがある。一瞬で遠く離れた場所に行けるスキルが。多分誰が見ても驚くだろうな。
「だけどそのスキル、ちょっと癖があってな。長い丈夫なヒモが必要なんだ」
「ヒモですか?」
「そうだ。長さは二メートルもあればいい。それを固い球体に結び付けて……」
「ゴーイチ殿、よろしいですか?」
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