第2話 異世界への帰還
「あらぁ、剛ちゃん。もう準備はいいの?」
日本に帰った俺は、実家から少し離れた山奥の小屋のある場所まで来た。そこにはいつの間にか女神が待ち構えていた。
胸元が見えるキャミソールに、ミニスカート姿、相変わらず女神の服のセンスはヤバいな。
「大丈夫だ。っていうか、その呼び方はやめろ」
「ふふ、いいじゃない。あなたとは古い付き合いなんだし、またこうしてあなたと会えるだなんてワクワクが止まらないわ」
「……俺は会いたくないが」
「そんなこと言わないで。思えば二十年前になるわね、あなたと最初に出会ったのは。まだあなたが十歳で、純真無垢な子供だったあなたが、こんなにたくましく育って。噂に聞いたけど、現実世界でも相当な活躍をしたそうで。私嬉しくて……」
「……いいから早く案内しろ」
俺の言葉を聞いて、さすがの女神も黙り込んだ。
「不愛想なところも相変わらずね。それにしてもさ……本当にいいの?」
「何が言いたいんだ?」
「マネージャーのこと」
「……お前、見てたのか」
女神も人が悪いな。俺とマネージャーのやり取りを、ちゃっかりのぞいてたとは。
「女の子を泣かせたら、あとで大変なんだから」
「悪かったって。いちおう、メールで謝罪と別れの言葉と、感謝の言葉はちゃんと送っておいた。彼女の両親にも、ちゃんと報告したよ」
「そう……ならいいけど……」
女神が小屋の中に入り、俺も続いた。
外から見たときは普通の木造の小屋、中に入ってもそれは変わらない。殺風景な内部だけど、ここが向こうの世界の入口に繋がっている。
「忘れ物はない?」
「大丈夫だって言ったろ。いいから移動してくれ」
「わかったわよ。じゃあ、火をつけるわね。ちょっと時間かかるけど……」
女神が指先から火を放ち暖炉の中の木に火をつけた。虹色に光り輝く炎だ。この虹色の炎も、子供の頃と変わらないな。最初見た時は手品かと思ったけどそうじゃない。紛れもない魔法なんだ。
あと数分もすれば、向こうの世界に着く。その間、無言だと気まずいと思ったのか女神が話しかけてきた。
「マネージャーはね、本気であなたのこと好きだったみたいよ」
「……もうその話はよしてくれよ」
性懲りもなく川田のことを話題にするんだな。
女神に言われなくてもそんなことはわかっていた。川田が部屋を出て行ったとき、目に涙が溢れていたのを見た。
なんとなく予想はしていた。俺への恋心は前々から噂されていたからな。
マスコミやネットでも、たびたび話題になっていた。熱愛報道までされていたっけ、たかが夕食を一緒にとっただけなのに。
川田には申し訳ない思いをさせた。俺の秘密を知ったのが三年前ほど、俺もその時から川田の想いは知っていた。
でもそれからも、川田の俺への態度は変わらなかった。もしかしたら俺が心変わりするのを、期待していたのかもしれない。
結局それは叶わなかった、川田はまだ俺を愛しているのか。いや、俺なんかを愛するより、川田にはもっとふさわしい相手がいる。
俺が蓄えた貯蓄は日本円で500億円くらいか。たった十二年の現役生活だけど、よく稼いだものだ。
「あいつの指定口座に、俺の貯蓄の半分の金額を振り込んでおいたよ」
「それって慰めのつもり?」
「慰謝料ってやつさ。これからの俺の生活には金なんて必要ないしな」
「お金なんかで、彼女の心は満たされないわよ」
女神の言うとおり。気休めにしかならないが、俺にできるのはこれだけだ。
「あら、着いたみたい」
窓の外を見ると、いつの間にか真っ白な霧に包まれていた。これも前回と変わらないな。
霧が晴れ、窓の外はさっきいた山奥と変わらないような光景になった。俺は窓の外をじっくり見た。
夜だというのに異様に明るい。ある物を見て、異世界だと認識した。
「月が二つある」
夜空を見上げると、大小二つの月があった。一つは元いた世界の月の倍くらいのサイズがある。もう一つの大きな月は、緑色に輝いている。
子供のころに見たのと同じ光景だ。間違いない、俺は戻って来たんだ。
「サリア……待ってろよ」
「あなた……まだ彼女のことを」
「うるさい、人のプライバシーだぞ」
「はいはい、わかったわ。でも、あなたのことなんて忘れてるかもよ」
「そんなわけない。俺は確かに約束した。必ず戻ってくるって。そして彼女も、忘れないと誓った」
「……でも百年は長すぎるかも。いくらエルフでも」
「…………」
女神の言う通り、この異世界ではもう百年も経過しているんだ。
俺は現実世界で二十年ほど生活した。その二十年が、こっちの世界では百年に相当する。
サリアはエルフだ。エルフは長寿の種族、最高で数千年も生きるエルフもいるらしい。
でも百年というのは、いくらなんでも長すぎる。もしかしたら、俺のことを忘れてるかも。そう考えると、ちょっと気持ちが沈んだ。
「それにしても元メジャーリーガーが、エルフと恋に落ちるだなんて、誰が想像できるのやら」
「悪かったな。それより、最後に頼みがあるんだが」
「なにかしら?」
俺はそっと手を差し出した。
「あぁ、この世界のお駄賃ね。はい、これで」
「金なんかいらない。メンバーカードをよこせ」
「……メンバーカード?」
どうやら女神は忘れてるようだ。あきれてため息を出してしまった。
「ギルドのメンバーカードだよ。ギルドで使うための、この世界から帰還する際にお前に渡しただろ!」
「あぁ、そうだったわね。思い出したわ! あ、でも……必要ないかも」
「なんでだよ? まさかギルドがなくなったのか?」
「そうじゃなくて……百年前のメンバーカードが使えると思って?」
「……あ」
「まぁ、でもあなたの身分証明できるのコレだけしかないしね。ないよりマシだからあげるわ」
「ありがとう。じゃあ……行ってくる」
「気を付けてね。戦い方は、わかるわよね?」
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