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史上最強のメジャーリーガーは引退後は二度目の異世界で自由なスローライフを送りたい  作者: 葵彗星


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第16話 謎の気配

 さっきの戦いも見ていたようだな。この様子じゃ、ますます俺に関心を寄せているのかも。


「あいにくだけど、俺は急いでいるんでな。用があったら、ギルドに戻ってからにしろ」

「わかったわ。じゃあ、私も行く」

「同行なんか必要ないんだが……」

「気にしないで。あなたとは戻る場所がほぼ同じだから」

「そうか。邪魔だけはするなよ」


 シモーヌは頷いて、俺のあとをついて来た。戻る途中で案の定、あれこれ質問してきた。


「あなた、一体何者なの? さっきのは……スキル?」

「言っただろう? ただの狩人だ」

「嘘言わないで。さっきの戦い見てたわ、狩人にしては強すぎる。それに……」


 シモーヌは地面に落ちていた石を掴んで、それを持っていた杖で弾き飛ばした。


「こんな風に、あなたは石をその棍棒で弾き飛ばした。そして鎧の魔物を倒した」

「よく見てたな。その通りだよ」

「……狩人にそんな攻撃スキルはないわ」

「俺固有のスキルさ。その名も〈フルスイング〉、石ころ程度でも棒で弾き飛ばせば、凄まじい速度で飛んで……」


 さっき鎧の魔物と戦った広間まで来て、俺は地面に散らばっていた破片を指差した。


「頑丈な鎧や盾だろうが、木っ端みじんさ」

「……もう一回やってみせて」

「いいけど、どこに?」


 シモーヌが壁を指差した。下手したらここが崩落しかねない、手加減しないとな。


「わかった。衝撃音が凄いから、耳を塞げよ」


 シモーヌが両耳を手で塞いだのを確認して、俺は壁目掛けて小石を棍棒で打った。

 軽い感じで打ったが、それでも凄い衝撃音が響いた。広間全体が揺れ、凄い量の岩石の破片が飛び散る。

 壁にはどでかいクレーターが出来上がった。隣で見ていたシモーヌは、思わず腰をぬかしている。


「これが俺のスキル、〈フルスイング〉だ」

「こんな! なんて威力なのよ!!」

「驚くことじゃない。これでもかなり手加減した方さ」

「手加減って……じゃあ全力で打ったらどうなるのよ?」

「生き埋めになるな」


 あっさり言い放ったが、普通なら冗談として受け止めれる言葉だ。でもシモーヌは真顔で受け止めている。


「……わかったわ。私のわがままに付き合ってくれてありがとう」

「満足かい? じゃあ戻ろ……」


 その時、俺は強烈な殺気を感じた。思わず周囲を見回す。


「どうしたの?」

「……いや、なんでもない」


 すぐに殺気が消えた。でも確かに感じた。これまでに感じたことのない、異様な気配だ。

 嫌な予感がした。すると今度はシモーヌが目を見開いた。


「見て! これは……」


 広間の床に散らばっていた鎧の魔物の破片を見下ろすと、何やら黒い煙が発生しだした。

 異様な臭いまで漂って、思わず鼻を塞いだ。


「何が起きてるの?」

「見ろ! 鎧が……」


 跡形もなく消えた。広間の床は、まるで何事もなかったかのように静まり返った。


「……なんだったの? 今のは……」


「まるで痕跡を消したかったかのようだ」


「痕跡を消す? 誰かが仕組んだって言うの?」

「……そうかもな」


 心当たりがあるとしたら、さっき感じた異様な殺気。キングオークの棍棒を拾った時に感じたのと似てる。同一人物か。


 恐らく関係しているだろうな。かなり遠くから魔法を唱え、鎧の魔物を跡形もなく消した。

 何が目的なのか。そいつらの正体も気になる。だけど今考えても答えはわからない。俺達はそのまま鍾乳洞をあとにすることにした。



「……はぁ、はぁ……急がなくては」


 剛一が入った鍾乳洞の出入り口から、北へ数百メートル進んだ場所にある切り立った深い渓谷がある。

 赤紫色のローブを身にまとった男は、馬に乗ってその渓谷の奥深くまで進み、自分のアジトへ戻った。

 アジトの前まで来て、同じく赤紫色のローブを身にまとった男が数名、入口の前で彼を出迎えた。


「ハドラよ。そんなに慌ててどうしたんだ?」


 ハドラと呼ばれた男は、馬から飛び降り大慌てで入口に駆け寄った。


「至急報告したいことがあります! どうかボラリス様への謁見を許可したい」

「なんだと!? お前ともあろう者が、ボラリス様への直接の謁見を請うというのか?」


 ハドラは膝まづいて頭を下げた。


「無礼な申し出であるとは承知しております! しかし緊急事態なのです、どうかボラリス様との謁見をぜひ!」

「今ボラリス様は休養中だ。悪いが日を改めてもらおう」

「そこをなんとか! 本当に緊急事態なのです!」

「ならばどういった緊急事態なのか、簡単に説明してもらおう」

「……わかりました」


 ハドラは自分が目撃した一部始終を報告した。出迎えた男達は思わず耳を疑った。


「そんな馬鹿な! ありえない、奴は最強の新ガーディアンだ」

「ボラリス様のお墨付きもある。この世界のどの戦士にも、破壊などされるはずがない」

「でも本当に見ました。しかもあり得ないほど粉々に破壊されたのです! 信じてください!」

「嘘ではないようだ」


 聞き覚えのある声が聞こえて男達は振り返った。入口の門の前にいつのまにか、白い法衣を全身に身にまとった男が立っていた。


「ボラリス様! 休養中だったのでは!?」

「あのような事態が起きては、私も居てもたってもいられなくてね」

「まさか……ボラリス様も!?」


 ボラリスは両手に球体のオーブを持って、静かに歩き出した。


「私も全て見させてもらった。どうやら……ことは重大なようだな」

「はい。ですがご安心ください。痕跡は消しました」

「ご苦労だった。奴の破片を持ち帰られたら、厄介だったのでね」 

「ボラリス様、一体何をご覧になったというのですか!?」

「今から私の研究室に全員集めるんだ。そこで全て見てもらおう」


 ボラリスは振り返って部下の男達に指示を出した。部下達はアジトの門を開け中へ入っていった。

 ボラリスはオーブを光らせ、一人の人物を映し出した。


「……森田剛一、戻ってくるとはな。だがあの時とは違う。百年前の借り、返させてもらうぞ」

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