第15話 脅威の打球
鎧の魔物はよろめいている。どうやら俺の棍棒で起こした風の威力の方がまさった。キングオークの棍棒を調達して正解だったな。
でもこの程度じゃあいつは倒せない。さっき手に取ったこの大きめの石ならばどうだ。
「剣で止められるなら、止めてみろ」
150km近い速度で石の破片を投じた。この大きさなら剣は欠けるだろう。
ガキィイイイン!!
俺の予想通りになった。鎧の魔物の長い剣は、真ん中で二つに折れ剣先が無情にも地面に落ちた。
「さぁて、これで武器はなくなったぜ。二球目はどうする?」
もちろん一投では終わらない。同じサイズの石を手に取り、もう一度150km近い速度で投じた。
俺は奴の胸の中央部分を狙った。奴が鎧の魔物、胸の中央部に弱点となる核が存在する。同じタイプのナイトガーディアンもそこに核があったからだ。
だけど俺は大事なことを忘れていた。奴は盾もあった。二投目は奴の左手に持っていた盾で防がれた。
「……あの盾、思った以上に頑丈そうだな。ならば!」
俺の野球魂に久しぶりに火がついた。現役時代にホームランを量産し続けた俺のバッターとしての恐ろしさを見せてやろう。
もう一度近くに落ちていた大きめの石を拾った。それを左手で持ち替え、棍棒を右手で持った。
少し深めに呼吸をして、俺は気持ちを切り替えた。今度はバッターとしての俺の実力、とくと見せてやる。
「この打球も防げるかな?」
左手で持った石を目の前までトスした。落ちてきた石をそのまま棍棒でフルスイングし、叩きつけた。
石はそのまま真っすぐ、鎧の魔物の盾目掛けて飛び衝突した。
バァアアアアアアアアン!!
「ピッチャーライナーだな」
凄まじい爆発音が響いた。直後に、何かが砕けて地面に落ちる音が聞こえた。奴の盾がバラバラに砕けたんだ。
やはり俺の予想通り、打球までは防げなかったようだ。
一般に、野球ではピッチャーの投球よりバッターが打ち返した打球のほうが速い。俺のバッティングも例外じゃない。
現役時代、最強のピッチャーと言われた俺だったが、同時に最強のスラッガーとも評された。繰り出される打球速度はすさまじく、時速200kmを超えることもあったな。おかげで場外ホームランは何度も経験した。
200km近い速度なら、それまでとは桁違いのエネルギーとなる。あの盾だって破壊可能だ。
「今度こそとどめだ」
もう一度同じ大きさの石棍棒でフルスイングした。盾がなくなり、石はそのまま鎧の魔物の腹部に直撃した。
鎧の魔物は跡形もなく吹き飛んだ。もしかしたらかなり頑丈で厄介な魔物だったかもしれない。でも俺の敵じゃなかった。
「核はないかな」
同じ鎧型のナイトガーディアンは核を破壊しない限り、何度でも再生した厄介な奴だった。この鎧の魔物も同じタイプなら、核を破壊しないと。
バラバラになった鎧の破片を見下ろす。核らしい物は見当たらない。
俺の杞憂だったか。それならそれでいい。もう再生しないなら、倒したも同然だ。このまま先へ行かせてもらうとするか。
*
「……嘘でしょ、なに今の!?」
ちゃっかりとゴーイチを尾行していたシモーヌが、バラバラに粉砕された鎧の破片を見下ろして言った。
「あいつ、ちゃっかりミスリル製の棍棒を持って……いや、そんなことよりもさっきの攻撃術……」
シモーヌは昨日のゴーイチの言葉を思い出した。
「狩人って言ってた……けど、違うわ。なんとしてでも突き止めてやるんだから」
シモーヌの好奇心はとどまるところを知らない。ゴーイチが向かった盆地へ足ばやで向かった。
*
「なかなかいい場所だな」
鎧の魔物を倒したその先は、森林が広がる盆地に繋がっている。確かに周囲が山に囲まれている。魔物の気配も感じない。
日の光もほどよく当たるから、森林浴にはもってこいの場所だ。
「さて、ヤドゥークリ草は……」
セリナが言っていた特徴をもとに俺は探し始めた。ヤドゥークリ草は主に木の根元に生え、歯の先端がギザギザになっていて、茎も太い。色はやや青みがかっているとのことだ。
俺はすぐに見つけた。
「これだな……よし」
気づけば至る所に特徴的なギザギザの葉がある。俺はありったけの量をむしり取って、袋の中に入れた。
あらかた取り終えた俺は立ち上がって戻ろうとした。その時、ふと黄色い花が木の根元に生えているのを見つけた。
「花か……異世界の花も美しいな。そういえば、セリナも喜んでいたな」
今朝、俺はセリナに地球の土産を一つ渡していた。引退記念でファンから贈呈されたヘリクリサムの花だ。
一応セリナには姉のサリアに渡すよう言っておいた。女神が枯れないような魔法を唱えていたから、大丈夫だとは思う。
でも花を渡したときのセリナの反応、とても喜んでいたな。あのままセリナへのプレゼントとしても渡してよかった。
セリナにはこの黄色い花をプレゼントしよう、一本だけ摘み取って袋の中に入れた。
「……ん?」
咄嗟に後ろを振り向いて、気配探知の範囲と感度を高めた。かすかだが、人の気配を感じる。
遥か後方、さっき鎧の魔物を倒した先にあった入口付近からだ。
すぐさま戻って誰がいるのか突き止めた。
「出てこいよ、いるんだろ?」
木陰に身を潜めていた人物に声を掛けた。彼女はあっさり姿を現した。
「さすがね。気配をちゃんと殺したはずなのに」
やはりシモーヌか。ちゃっかり俺を尾行していたとはな。
「あの程度じゃ、見つけてくれと言ってるようなものだぞ?」
「ふぅ、本当にまいったわ。あなたは凄すぎる。さっきの鎧の魔物もそうだけど、あんな倒し方初めて見たわ」
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