第13話 魔物が強化されている!?
「はぁ、はぁ……くそ、一体どうなってんだよ!?」
三人の戦士が鍾乳洞内を急いで入口に向かい移動していた。
「ローガン、しっかりして!」
「シモーヌ、治癒魔法の効果は?」
スネイルは斧を持ったローガンを肩で担ぎながら移動している。後ろからついてきているシモーヌが魔法を唱え続けるも、ローガンの傷は戻らない。
「傷が深すぎて、全快は無理」
「どうなってんだよ、全く! 昨日と言い今日と言い、どうしてあんなヤバい奴が出る!?」
「……話が違うぜ。鍾乳洞を突破して、その先の森に自生する、ヤドゥークリ草を採取するだけの簡単な依頼のはずがよ」
「全くよ。何であんなヤバい奴らが……」
「しかも異様に強化されている、本来Cランクの魔物だぞ。あいつらは……」
「待って!」
シモーヌが声を掛けて止まった。
「どうした?」
「奴らよ」
「なに? まさか……」
「しゃあああああああああ!!」
獣の雄叫びが鍾乳洞内に何度も響き渡る。天井を見上げたスネイル達は絶望した。
「もう追って来たのかよ」
「なんて移動速度なの!」
「くそ、どうする? このままじゃ……」
天井を這っていた三体のトカゲの魔物がそのまま地面に降り立ち、スネイル達の逃走経路を塞いだ。
「シモーヌ、〈ディープスモーク〉を!」
「もう無理、魔力が……」
「そんな。頼みの綱が……」
「しゃああああああああ!!」
ジリジリと一体が近づいてきた。スネイルは覚悟を決めた。
「……おめおめと殺されるのを待ちたくはねぇ」
「おい、スネイル!」
剣を両手で持ち、敢然と身構えた。
「どうせ死ぬなら、もろともだ! でやああああああ!!」
「スネイル、やめてえええええ!」
向かってきた一体にスネイルが突貫した。力の差を痛いほどわかっていたシモーヌとローガンは、ふいに目を閉じた。
「ぎええええええええ!!」
トカゲの悲痛な鳴き声が響き渡る。シモーヌとローガンが目を開けると、信じられないことにトカゲが血を噴き出しながら倒れていた。
「嘘……やったの?」
「うおおお! スネイル、よくやった!」
「……いや、俺じゃねえ」
「ぎぃやあああああ!!」
二体目のトカゲの鳴き声が響く。今度は左側にいたトカゲが吹き飛ばされた。続いて、右側にいたトカゲも同じく吹き飛ばされる。
「なんだ? 一体どうなってやがる!?」
「……これは?」
三人が呆然とする中、三体のトカゲは呆気なく倒れた。
シモーヌは地面に転がった物体に目がいった。ふと手に取り間近で見ると、豆粒ほどの大きさしかない小石に緑の血が付着している。
「まさか……この小石で?」
「おい、大丈夫か?」
通路の奥から男の声が聞こえた。三人とも聞いたことのある声だ。シモーヌが最初に気づいた。
「あなた……ゴーイチ!?」
*
全くなんという偶然の巡りあわせだろうか。
鍾乳洞の奥から、誰かの声と魔物の気配がすると思って駆け付けたら、昨日会ったばかりの三人の戦士がいるじゃないか。
「あぁ、おたくらだったのか。いや、その……奇遇だな。こんなところで何してるんだ?」
「…………」
俺が話しかけても、三人とも固まったままだ。
「おい、大丈夫か? 一体どうした?」
「……あなたが倒したのよね?」
「あぁ、このトカゲどもか。レッサーリザードだから、大して強くないだろ。邪魔して悪かった」
「いや、邪魔なんかじゃねぇよ。あんたは……命の恩人だ!」
「本当にありがとう、なんてお礼を言ったらいいか」
先頭にいたスネイルが大げさにも俺に礼を言ってくれた。たかがレッサーリザードを倒したくらいで、なんでこんなかしこまっている。
「ん? その傷は?」
俺は後ろにいたローガンの様子がおかしいことに気付いた。なんと血を流している。
「へへ、またあんたに助けられるだなんてな」
「どうしたんだ? 一体何にやられた!?」
シモーヌは俺の質問に答えず、倒れていたトカゲ達を見下ろして俺を見た。
「……冗談だろ?」
「冗談じゃない。本当にこのトカゲ達にやられたのさ」
彼らが変な冗談を言うとは思えない。信じられないが、このトカゲ達がまさかスネイル達を苦しめるほど、強かったというのか。
「レッサーリザードなのは間違いないわ。私達も最初は油断したから」
「楽に勝てるだろうと思ったら、なぜかこっちの攻撃が全然通用しねぇ。明らかにこいつら、強化されていやがる」
「強化……本当なのか?」
昨日宿の亭主が言っていたことが脳裏に浮かんだ。魔物が異様に強化されている、どうやらそれは現実のことらしい。
「ぐ……ぎぎぎ……」
「この声は?」
「まだ生きてるわ!」
「意外としぶといな。しかし!」
かすかに動いていたレッサーリザードも、俺が棍棒で叩き潰してとどめをさした。
「信じられない、まだ生きていたなんて」
「俺の速球でも一撃でやられないとは。豆粒くらいの石しか用意しなかったが、もう少し大きめの石が必要だったか」
「はは、いやなんというか……豆粒の小石であれだけの威力だなんて……」
「それはそうと、あんたら何の用があってこの鍾乳洞まで来たんだ?」
「何って……ギルドの依頼で来たのよ」
「ギルドの依頼?」
「この鍾乳洞を抜けた先は、盆地になっていてね。そこに広がる森に自生するヤドゥークリ草を採取するのが、俺達の目的だったんだ」
なんてこった。なんとなくそんな予感はしていたが、まさかこいつらも俺と同じだったか。
「……ヤドゥークリ草って、何かの役に立つのか?」
俺は敢えて知らないふりをして聞いてみた。
「お前、知らないのか? 今流行の“魔怨”を?」
「あぁ、それなら知っているが、それとどういう関係があるんだ?」
「どういう関係もくそも、その“魔怨”を治す特効薬の原料になるんだよ」
「へぇ、そうなのか……」
「最近“魔怨”が王都を中心に流行しているらしいから、その原料となるヤドゥークリ草は需要が増して、ギルドでも依頼が逼迫しているほどだ」
「報酬も高いんでね。それで俺達も、最近はここに来る機会が増えたんだ」
「でもそれも、今日までになっちゃうかも……」
シモーヌが暗い顔をして言った。
「おい、まだ諦めるなよ」
「だって……あなたも見たでしょ!? あんな巨大な怪物、昨日までいなかったのに」
「巨大な怪物?」
シモーヌの顔が一気に険しくなった。
「……わからない。あんな怪物、魔物図鑑にも載ってないもの」
魔物図鑑とは、この世界に生息する魔物が全て掲載されている図鑑だ。でもそれに載ってないというのか。
「シモーヌ、お前は考えすぎだ。アレはキングオークの亜種か何かだ。明日、装備を整えて再挑戦だ。なんならもっと多くの味方を連れて……」
「スネイル。あなたはもう少し慎重になった方がいい、その無鉄砲さで、昨日もキングオークにやられかけたんでしょ?」
「なんだと? 言わせておけば……リーダーはこの俺だぞ!」
「私の知識を侮らないで。あなた達より何倍も勉強しているのよ!」
「あぁ、あぁ! お前ら、落ち着いたらどうだ?」
こんな鍾乳洞の中で、男女の口論とか聞きたくないな。
「ゴーイチは黙っててくれないか。これは俺達の問題だ」
「だからと言って、こんな場所で口論することもないだろ。それより仲間の傷の回復を、優先させたらどうだ?」
俺は苦しんでいるローガンを指差した。二人ともそれを見てハッとしたようだ。
「すまねぇ。悪かったよ……」
「それより聞いてなかったわね。ゴーイチこそ、どうしてこんな場所に?」
「俺は……まぁ、実を言うとおたくらと同じ目的だった」
今更隠してもアレだから、俺は正直に話すことにした。
「まさか俺達と同じだったとはね。だけどお前は運がいいぜ。今のうちに引き返しな」
「おいおい、なんでそんなこと言うんだよ?」
「さっきも言ったでしょ? この先の大広間に巨大な怪物がいるって」
「そいつを倒しちまえば、問題ないんだろう?」
スネイルとシモーヌは二人してかぶりを振った。
「……少なくとも俺達の攻撃はまるで通じなかった。それだけは言っておこう」
「だけど変な奴なのよ。攻撃しても一切反撃しないの……」
「それじゃ楽じゃないのか?」
「攻撃が通じないんじゃ意味がない。とにかくそいつが道を塞いでいるから、倒せない以上通行は不可能なんだ」
「しかも、全身に鎧まで身に着けている。盾も装備していたわ。耐久力も桁違いよ」
「そうかい、情報提供ありがとう。じゃあ、俺が倒すよ」
「おい、ちょっと待て!」
これ以上スネイル達の話を聞く必要はない。どんな強さかわからない奴は、実際にこの目で確かめるのに越したことはない。
「心配するなって、ヤドゥークリ草はあんたらにも少し分けるさ」
俺はそう言って鍾乳洞の奥目掛け、突っ走った。三人とも俺を呼び止めていたが、次第に声は届かなくなった。
三人とも、不安をあおるようなことを言っていたが、俺だってこの先のヤドゥークリ草は必要だ。そうしないとセリナの父を救えないから。
ここの鍾乳洞内のマップは頭に入っている。やはり二十年前と変わっていないな。そして俺の記憶が正しければ、もう少しで大広間に着くはずだ。
「お? ここか……」
五分ほど移動して、大きく開けた場所に出た。あの三人も言っていた大広間、かすかに外の空気も感じる。出口も近い。
「あれは!?」
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