第10話 セリナの姉は大魔道士
入るなり、宿の亭主らしき男がいきなり大声で呼びかけた。なんてことだ、宿の名前も変わってないんだな。
「おや、どうしましたお客様? 何か探し物でも?」
「……いや、なんでもない……気にするな……」
思わず店内をジロジロ見てしまった。美しい花に寄り添う鳥達の彫刻が戸棚に置かれ、、壁には芸術的な絵画が飾ってある。
カーテンも凝った装飾までされている。この独特な内装、以前とほぼ変わってないな。
俺のいる世界じゃ、百年どころか十年くらいで店の内装はガラリと変わるもんだ。それとも、たまたまこの宿だけかな。
「お客様、この辺りじゃ見ない顔ですね。さては新人冒険者ですね? いやぁ、お目が高い。百年以上の歴史を誇るこの『花鳥の集会所』をお選びになるなんて」
「百年? へぇ……長いな……」
確か俺が最初この宿を訪れたとき、宿の亭主が「まだ開店したばかりで」と言って気がする。ということは、今の言葉で間違いなく百年は経過していると裏付けられたな。
待てよ。あの壁の肖像画の白髪の人物は。
「あぁ、あれは初代亭主の肖像画ですよ。私の曽祖父にあたります」
名前のところにこの世界の文字で『ビッグス』と記されている。確かにその名前だったな。
そして今目の前にいるひ孫の亭主と確かに面影あるな。髪型、髭の位置とかそっくりだ。まさか目の前にいる男が、自分の曽祖父に会っていたなんて夢にも思わないだろうな。
「どうしました? 私の顔に何かついてます?」
「いやいや……なんというか……そっくりだなって思って……」
「はは。この話題を出すたびによく言われるんですよ。ところで、お客様ご予約はされていますか?」
「予約? この宿は予約制なのか?」
確か最初にこの宿に訪れたときはそんな制度じゃなかったはずだが。まぁ百年も経過しているから、これくらい変わるものか。
「はい。この宿は立地がいいもので、多くの冒険者が利用されるんですよ。おかげで商売繁盛なんですが、すぐに満室になるのでそのような形式をとらせてもらってます」
「大丈夫です。私が予約をしていますから」
「おや? あなたは……」
後ろからセリナが声をかける。ちゃっかり予約していたのか。
「ご無沙汰しています、バッカスさん」
「おぉ、セリナ様でしたか。予約のお話は聞いておりましたが、まさかこんな夜遅くに足を運ばれるとは」
「ごめんなさい。実は西の鍾乳洞まで行って戻ってまいりましたの」
「西の鍾乳洞!? あんな場所までまさかお一人で!?」
「はい。危険を承知ではありましたが、一刻を争う事態なので……」
「……ということは……あのお方のご病気がまだ……」
「病気? おい、セリナ。誰がどんな病気なんだ?」
「あの、失礼ですが……セリナ様のお知り合いですか?」
「あぁ、そうだ……名乗るのが遅れたな。モリタ・ゴーイチだ」
「私の新しいボディガードです。先日雇ったばかりで……」
「なんと、そうでしたか? いやはや、これは失礼しました」
「それでセリナ……病気について……」
ここまで言いかけてなんとセリナが急に倒れ込んだ。
「おい、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です……ちょっと……魔力を使いすぎて……」
「セリナ様、無茶しすぎですぞ! お部屋を用意してありますから、さぁ早く!」
「俺がおんぶしてやる。さっきの話は、また今度な」
セリナをおんぶして、亭主も一緒に三階にある空部屋へ向かった。
姉も姉なら妹も妹だな。思えばサリアも無鉄砲なところがあった。
セリナをベッドに寝かせた。熱はそこまでないようだが、だいぶ衰弱しきっている。確か森で負傷したスネイル達を治癒したのは覚えているが、まさかその程度でこれほど消耗するとは思えない。
ここは亭主から話を聞いた方がよさそうだ。
「典型的な魔力枯渇症状ですな。魔道士見習いがよく起こします」
「魔道士見習い? セリナは……」
「もしやお姉さまのことをご存じなので?」
「……あぁ、一度会ったことある」
一度どころか、何度も会ったけどな。しかしセリナが魔道士見習いということは、やっぱり姉に憧れているのか。
「ご存じでしょうが、セリナ様の姉、サリア・フォン・ハヴィエール様は、それはエルフの中でも屈指の実力を誇る大魔道士でございます」
エルフ屈指の大魔道士、俺がいなくなった百年の間でそこまで成長したのか。
最初にサリアに出会った時も彼女は凄腕の魔道士と言われていた。その時から彼女の魔法にはお世話になった。
「セリナ様は、そんなサリア様に憧れているのです。ましてやハヴィエール公爵家は代々大魔道士を送り出してきました。自分だけが後れを取るわけにはいかないと、セリナ様も焦っているのです」
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