第2話 魔族になりました
目を開けると、目の前にさっきまで俺がいた魔方陣と周りの木々が見えた。
自分のものになった手を見て動かす。
「…本当に他の体に入ったのか。すごいな」
【どうやら、うまくいった様だな。】
「うお!? 頭の中に声が!」
眠ると言っていたリオンだが、どうやらまだリオンの意識は起きていたらしい。
【…まだ少し時間があるようだから、これからのことを話す。】
「…おう。」
【先程言ったように、俺は力を使い果たして弱体化している。決して、それを誰にも悟られるな。当然ここで俺が死にかけていたことも、現在俺の中身がお前だということもだ。】
「わ、わかった。…ちなみに、バレるとどうなるの?」
【俺は魔族で魔王軍の幹部だ。魔族と人間は戦争の真っ只中…。俺の首を狙っている者は多い。 】
人間と戦争中って…、俺はこれから人間の敵になるってことか。てことは、もしかしたら俺は魔族として人間と戦う事になるのか?
…いや、こいつの代わりをするのは元の世界に帰るまでだ。他の世界の事情など深刻に考えないようにしよう。
「つまり、人間に気をつければいいんだな。」
それなら俺が人間に会わず、過ごせばいいだけだ。なんてことはない。
【…いや、そうとは限らない。 魔王軍も一枚岩じゃないからな。幹部の中には他の奴を蹴落とそうする奴もいる。幹部の椅子を狙う他の魔族もいるだろう。】
「身内に敵がいるかもしれないてことか…大変だな。」
でも、こいつって魔王軍の幹部なんだろう?
ていうことは、この体はすごい力を持ってるはずだ。いざとなれば、魔王軍幹部の力で…
(…いや、ちょっと待て)
そういえば、さっき力を使い果たしたって…
「え…っ!?つまり、俺はそんな敵だらけの中、力の無い状態でこの異世界で過ごせと!? 」
【ふん、バレなければ問題ない。 この俺は幹部の中でもさらに高位の魔族だ。迂闊に、戦いを挑むものはいないはずだ。】
「ほ、本当にだろうな?」
【それに時が経てば力…、魔法の源である魔力は少しずつ戻る。案ずるな。】
「そ、そうなのか?」
やっぱり魔法が当たり前にあるのかこの世界は。そして、その魔法を使うための不思議パワーが魔力ということか。
【俺の体に入ったお前は、俺の記憶を見ることができる。最初は僅かな情報しか見えないかもしれないが、徐々にたくさんの事を知ることが出来るようになるだろう。魔力の使い方もそれで知り、強力な魔法を使うことが出来る様になる。】
おぉ、なんかなんとかなる気がしてきた!
【…時間がない。最後に、伝える事がある。…常に冷静でいろ。 何があろうと動じることなく堂々としろ。】
「それは、お前のふりをするのに大事なことなんだな。」
確かにそんな感じだもんな。こいつ。
なんというか、クールな強キャラ…みたいな。
【『常に構えず、自然体で構えろ』 それが俺のモットーだ。】
…武術の達人かよ。
なんだ、そのトンチみたいなモットーは。
【…突然呼びだして、俺の都合に付き合わせてしまった。 …すまない。】
──ッ!
いきなり殊勝な態度になりやがって、少しドキっとしたじゃないか!
「お、おう。気にすんな。 後は、俺に任せてお前は寝てろ!」
【…ふん、頼んだぞ。】
そう言い残して、リオンの声は聞こえなくなった。
(…さてと)
何はともあれまずは情報だ。
(リオンは、記憶を見て情報を得られるって言ってたな。)
そう思い、頭に意識を集中してみる。すると、まるで自分の記憶のようにリオンの記憶が見えてきた。
知り合いの魔族の顔と名前、魔王軍の本拠地である魔王城についてなど、生活をするのに困らない程度の情報は見る事が出来た。
見れる記憶の範囲は限られており、奴が何故瀕死の状態でここにいたのかは、その経緯はまだ見る事は出来ないようだ。
(かなり重要な記憶だと思うのだが…)
…まあ、いいや。
(しばらくは、知り合いに会わない様にしなくちゃな。…後、人間にも。)
リオンに魔力が無いことと、中身が俺であることはバレてはならない。
どこでボロが出るかわからんから、リオンが目覚めるまでどこかに隠れて、異世界ライフを無難にやり過ごそうか。
…と考えていたところ、
―ガサッ ガサッ
「あぁ! リオン様、探しましたよ!」
後ろの草むらから一人の女性が現れた。
(え、誰?)
リオンの名前を呼んだから、知り合いかな?
俺は記憶の中から女性の情報を探す。
(…げっ、魔族か。)
名前は、クロエ。 リオンの部下らしい。
クロエは、長袖とロングスカートの上下黒い服装で大きな丸眼鏡をかけ、その背には人外の者感丸出しに黒い翼が生えていた。
「よかった~! いきなりフラっと、どこかに行ってなかなか帰ってこないんですもん!」
「…お、おぅ。」
いかん、早速動揺してしまった。落ち付け、冷静にだ。
「『魔王城』に帰りますよ!さあ、さあ。」
うげっ…、魔王軍の本拠地、『魔王城』に帰るだと!?冗談じゃないぜ!
…と、言いたいところだが、現状行く宛ても無い。
わけわからん異世界を彷徨いて、魔族の敵である人間に見つかったら面倒だし、魔王城とやらに行くことにする。
リオンの記憶によると、魔王城にはリオンの居住する部屋があるらしいし。
「う、うぬ! そうしよう。」
「?」
クロエが首を傾げてる。 今の言い方はリオンぽくなかったようだ。
(こりゃ…なるべくしゃべらない方がいいかな。)
早速ボロが出てしまった。
魔王城に到着したらすぐにクロエと別れて、誰にも会わないように自室に引き籠ろう。
「では行くぞ、クロエ! 魔王城へ!」
「…なんでそんなに気合い入ってるんですか?」
「は、早く帰りたくてな。 疲れてるから、休みたいんだ。」
「はあ…。そうですか。」
若干訝しんでるが、まだ中身が別人だとはバレてはいない様だ 。
「でも、リオン様。お疲れのところ残念ですが、この後すぐ幹部会議がありますので。」
「………………へ?」
なん…だと…
誰にも会いたくないっていうのに!
「世界中に散らばった最強の魔族達が一堂に会しますからね。ドキドキしますね~!」
(なんだってー!?)
世界中に散らばった最強の魔族…。
(別の意味でドキドキするわ!)
やばい、鼓動が早くなってきた。
「もう~、リオン様。そもそも私達はそのために、魔王城に向かってたんじゃないですか~。」
(なんだとおおおおおおおお!?)
リオン様、そういう事はあらかじめ言ってくださいよ!
背筋に冷や汗が伝う。
まずい展開だ…
「では行きましょう。リオン様!魔王城へ! 」
「お、おう…い、行くぞ…。」
俺は動揺を悟られない様に、無表情に応えるしかなかった。




