プロローグ
「ではこれより、魔王軍幹部会議を始める。」
重々しい空気の中、議長の声が響く。
「ガハハ、待ちくたびれたぜ!」
「ふぅ…、僕も暇じゃないんですけどね。」
「ふふ、有意義な会議になると良いですね。」
「キャハハッ ☆ 今日も一人欠席だね~」
「どうでもいい! こんな会議終わらせて 私はァ、早く戦いてぇんだよ!」
「クケケケ…」
「…ふん、くだらん。」
薄暗く広い部屋の中。その中央に置かれた長く光沢のある鋼鉄のテーブルを囲んで座る八人の影。
席は九つ。本来なら九人が出席するはずの場だが、一つの椅子が座る主を迎えていなかった。
ここは、魔王軍幹部の会議室。
その名の通り、魔王軍の幹部が集まり、戦果の報告や作戦会議をする場所である。
――…その昔、魔族との長い戦いの末、人間達は辛くも勝利し、敗北した魔族達は追われて隠れる様に地下へ潜り、地上は人間のものになった。
だが、それから時は経ち、数を増やして力を蓄えた魔族達は地上に飛び出し、再び世界を征服せんと発起する。
そして現在、魔王による魔族の軍団【魔王軍】と各国の人間で結成された軍団【人間軍】は、この世界の覇権を巡って争っていた。
【魔王軍】は九つの軍団に分かれ、それらを率いる九人の幹部達は世界中に散らばって人間軍と戦っている。
人間達と激しい戦いを繰り広げる中、魔王軍幹部達は時折本部である魔王城の会議室に集まって会議をするのであった。
「ガハハ、人間の町を二つ滅ぼしてきたぜ! 人間軍も大したことないな!!」
燃える様な赤い髪の大男が大きな声で己の戦果を自慢する。
「ふぅ、まったく。それは僕が集めた情報と綿密に立てた作戦のお陰でしょう。」
溜め息をつき、硝子の眼鏡のフレームに指を当てながら、大男の隣に座っている優男が言った。
「なんだと!? お前の作戦なんてなくたって、俺の力があれば充分だったんだよ!」
優男の言葉が気に障ったのか、大男が怒りの形相を顕わにする。
「なんなら試してやろうか?あぁ!?」
―ボォオッ
威嚇する大男の全身から炎が噴き出る。
「…構いませんよ。もっとも、あなたについての情報は充分に持ってます。負ける気がしませんね 。 」
—パキッ パキッ…
割れる様な音とともに、優男の座っている椅子や周囲が凍てつき、巨大な氷柱が作られていく。
「覚悟しやがれ!」
「…野蛮人が。」
二人が向き合い火花を散らす様に、大男の炎は火勢を増し、優男の氷柱はさらに大きくなる。
「まあ…、お二人が戦ったらこちらも危ないですわね。」
大男の向かいに座っている、和服姿の女性が眉を八の字にしながら言うと、
―シュルル…
風が吹き抜ける様な鳴き声と共に、彼女の背後から巨大な白蛇が顔を出した。
「…おぅ、お前もやるのか?」
「ふふ…まさか。あくまで身を守るためですわ。 」
大男の問いに和服の姿の女性は、「ふふっ…」と小さく笑うが、その目は争う二人を鋭く捉えていた。
「アハハハハ!また争ってる~。飽きないね~☆ 」
和服姿の女性の隣の席、フリルをたくさん付けた黒いドレスの少女が楽しそうに言う。
しかし、その態度とは裏腹に、テーブルの下に隠れた彼女の手には短剣が握りしめられていた。
「もう~。めんどくさいから、やめなよ~☆ ね? 」
笑顔で嗜めつつ、ドレス姿の少女の目のハイライトは消え、テーブルの下から短剣を握りしめた手を覗かせる。
「いいや、止めんじゃねぇ! 私もまぜろよ!!」
黒ドレスの少女の隣、軍服姿の女性が声を上げるとともにテーブルに上った。
「つまらねぇ会議より、こっちの方が楽しいだろうがッッ!」
殺気を表す様に、軍服の女性は全身から黒いオーラを放つ。
「クク… クケケ」
優男の隣に座っている、髪が長く白衣を纏った小柄な魔物はテーブルを見て俯いたまま不気味に笑っている。
誰かが動けば、戦いが始まる一触即発の状態。もはや、この場が地獄となるのを待つしかないと思われたが…
「全員、静まれッ!!」
殺気立つ部屋を一喝する声。
「うおッ…!?」
「くっ…!」
「…っ!」
「きゃっ」
「ちっ…」
「ク…ケ」
その一声だけで炎は消え、氷柱は崩れ、巨大な蛇は奥の暗闇へ引っ込み、黒いオーラは霧散した 。
長いテーブルの奥の真ん中の位置。《《議長席》》に座る白銀の鎧を纏った金髪の女性が鋭い眼光で全員を見る。
大男は罰が悪そうに静かに座り、優男は少しずれた眼鏡を直し、軍服の女性はテーブルから下りてドカッと椅子が傾く勢いで席に着いた。
場が静まったのを確認してから、鎧の女性は話出した。
「今日皆が集まったのは、我らが魔王軍の勝利のために意見を深め合い、より強固な団結を築くためだ。同志で争うためではない。」
「けっ、ただの会議だろ。」
「何か言ったか? 意見があるなら聞こう。」
小言言う大男をギロリと睨む議長。
大男は、「なんでもありませーん」とそっぽを向いて流す。
議長は大男の態度は気にせず、別の方へと視線を移す。
「しかし、君はさすがだな。 あの喧騒の中、ただ一人落ち着いていた。 」
議長は、自分の斜め右前隣に座る 《《俺》》を見てそう言った。
「まったく、頼もしい限りだよ。」
そう褒めてくださる議長。
「そうですね。つい構えてしまった自分が恥ずかしく思ってしまいます。…さすがですわ。」
自分の頬に手を当て、恥ずかしそうに言う和服の女性。
「ふん、私の殺気にも眉一つ動かねぇかよ。まあまあ、やるじゃん。」
軍服の女性がこっちを見て、ぶっきらぼうに言う。
俺はただ腕を組んで目を閉じ、俺に対して向けられた称賛の言葉を聞いていた。
皆が黙ったところで、俺は目をスゥッとゆっくり開けて言う。
「…ふん、くだらん。」
『おぉ……』
泰然自若、冷静沈着、常に構えずに自然体に構える。
周りが勝手に騒げばいい、俺には関係ないと言わんばかりが俺のスタイル。
…しかし、それはテーブルより上の話。
それより下…、テーブルで隠れた俺の半身は戦々恐々、腰は抜け、脚はガクブルと震えていた。
(し、死ぬかと思ったああああああああ!)
「…ふん、くだらん。」と思いつつも、これからも読んでいただけたら嬉しいです。




