第6話 子供と遊ぶと、覆面は勝手に可愛くなる
――翌朝。
「……騒がしい」
目を覚ました瞬間、
外から甲高い声が聞こえてきた。
「マスクのおじちゃーん!」
「起きてるー!?」
「ねぇねぇー!」
「……もう朝か……」
布団から起き上がり、
重たい体を引きずって外に出る。
すると。
「――おはよー!!」
子供の群れ。
五人。
いや、六人。
全員、俺を見て目を輝かせている。
「……なんだよ」
「昨日の人だ!」
「覆面の人!」
「ゴブリン倒したんでしょ!?」
……話が早い。
「……まぁ、な」
そう答えた瞬間。
「すげー!!」
「かっこいい!!」
一斉に歓声。
その時だった。
――じわっと、顔に違和感。
「……?」
俺は、嫌な予感がして、
近くの桶に張られた水を覗き込んだ。
「………………」
マスクが変わっていた。
昨日までの精悍なデザインではない。
目元が丸い。
線が柔らかい。
全体的に――
「……可愛く、なってないか?」
子供たちは、即座に反応した。
「わ!」
「かわいい!」
「え、なにそれ!」
「……は?」
俺は、慌てて顔を押さえる。
「おい、戻れ……戻れって……」
念じる。
が。
マスクは、
ちょっとキラキラしたままだった。
「……やめろ……」
子供の一人が、無邪気に言う。
「その顔、優しい感じする!」
「……余計なお世話だ」
完全に、
子供向けヒーロー仕様。
俺は、空を仰いだ。
「……女神、出てこい……」
返事は、ない。
⸻
「ねぇねぇ!」
「なにができるの!?」
囲まれる。
「……プロレス技しか使えない」
「プロレス?」
「……押したり、投げたり」
「じゃあ!」
小さな男の子が、
俺の腕にしがみついた。
「やって!
持ち上げて!」
「……いや、危ない」
「だいじょうぶ!
マスクおじちゃん、つよいでしょ!」
……信頼が重い。
「……少しだけだぞ」
俺は慎重に、
男の子を持ち上げる。
軽い。
――軽すぎる。
「……え」
片手で、持ち上がった。
「わぁぁぁ!!」
歓声。
調子に乗る子供たち。
「ぼくも!」
「わたしも!」
「……おい、待て」
結局。
子供プロレス教室が始まった。
軽いリフト。
安全な受け身。
地面に寝転んでのゴロゴロ。
――気づけば。
「……笑ってる」
俺は、
自分が笑っていることに気づいた。
いつぶりだろう。
こんなふうに――
何も考えず、
誰かと過ごしたのは。
⸻
「……マスクさん」
リリアの声。
振り向くと、
少し離れたところで彼女が立っていた。
「……ずいぶん、
平和そうですね」
「……俺が一番驚いてる」
リリアは、
俺のマスクを見て、目を瞬かせた。
「……その顔」
「言うな」
「……子供受け、
完璧ですね」
「……言うな」
だが――
その瞬間。
「――ギィィィ……」
空気が、変わった。
背筋が、ぞくりとする。
子供たちも、動きを止めた。
「……?」
耳が、捉えた。
――複数の足音。
荒い呼吸。
ゴブリン。
しかも――
数が多い。
「……リリア」
俺は、静かに言った。
「子供たちを、下げろ」
「……え?」
「……来る」
言い終わる前に。
森の奥から、
十数体のゴブリンが姿を現した。
「……っ!」
村人たちが、悲鳴を上げる。
子供たちが、怯えて後ずさる。
俺は、一歩前に出た。
――その瞬間。
マスクが、変わった。
可愛い丸みが消え、
目元が鋭くなる。
線が引き締まり、
表情が――
「……本気、か」
怒りが、胸に湧く。
子供の前だ。
守らない理由は、ない。
「……下がってろ」
俺は、低く言った。
次の瞬間。
マスクの額に――
小さなツノが、浮かび上がった。
村人たちが、息を呑む。
「……出た……」
誰かが、呟いた。
俺は、拳を握る。
「……さぁ」
ゴブリンたちを睨み据え、
地面を蹴った。
「第2ラウンドだ」
⸻
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