第5話 覆面の下は見えないが、生活力の低さは見える
――夜。
村の外れにある、小さな空き家。
今日の俺の寝床だ。
「……助かる」
木の床。
硬い毛布。
それでも、屋根があるだけでありがたい。
「怪しい者を泊めるわけにはいかんがな」
そう言いながらも、
村長は最低限の寝具を用意してくれた。
人は、思っていたより優しい。
……覆面でも。
⸻
その後。
「治癒だけ、させてください」
そう言って部屋に入ってきたのが、
昼間の少女――リリアだった。
ランプの灯りに照らされて、
白いローブがやわらかく揺れる。
「……怪我は、ないと思うが」
「それでも、念のためです」
リリアは真面目な顔で言った。
「素手でゴブリンを倒す人は、
だいたいどこか壊れてます」
「偏見が強いな」
軽くツッコむと、
彼女は一瞬だけ口元を緩めた。
――笑った。
それだけで、
少し胸の奥がざわついた。
「……じゃあ、腕を」
言われた通り、腕を差し出す。
リリアが、そっと手をかざす。
「《小治癒》……」
淡い光が、腕を包んだ。
「……あ」
温かい。
心地いい。
「……どうですか?」
「……効いてる」
というか、
効いてるのは体だけじゃない気がする。
⸻
治癒が終わり、
リリアは俺の顔――正確にはマスクを見た。
「……その覆面」
「……外れない」
「……ですよね」
即答。
「どうしてそう思った?」
「外れたら、
あなた、昼間の段階で外してます」
「……正解だ」
少し、間が空く。
「……暑くないんですか?」
「……暑い」
「蒸れません?」
「……蒸れる」
「洗えないですよね?」
「……洗え――」
そこで、思い出す。
「……いや、洗える」
「?」
俺は川での出来事を説明した。
自動洗浄。
防水。
泥が一瞬で消える。
話し終えた後。
「…………」
リリアは、無言で俺を見つめた。
「……無駄に高性能ですね」
「だろ?」
「外せないのに?」
「そこが一番要らない」
深く頷き合う。
⸻
「……ところで」
リリアが、ふと聞いてきた。
「そのマスク、
どうして被っているんですか?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……元々は」
少しだけ、正直に言った。
「……逃げるためだ」
「逃げる?」
「……顔を見られたくなかった」
それ以上は、言えなかった。
リリアは、少し考えてから言った。
「……でも今は」
「?」
「誰かを守る時の顔、
になってます」
胸が、少しだけ痛んだ。
「……俺は、
そんな立派なもんじゃない」
「……そうですか?」
リリアは、静かに言う。
「でも、
村の子供たちは――」
そこで、外から声がした。
「ねー!
マスクのおじちゃーん!」
元気な声。
数人の子供が、窓の外から覗いている。
「……え?」
「さっきから、
ずっと様子見てました」
リリアが、苦笑する。
「……人気者ですね」
「……勘弁してくれ」
そう言いながらも、
悪い気はしなかった。
⸻
その夜。
布団に入り、
天井を見上げながら思う。
覆面は外れない。
人生も、たぶん簡単には変わらない。
それでも。
「……まぁ……」
誰かが、
「怪物」じゃなく
「人」として接してくれた。
それだけで――
今日は、悪くなかった。
マスクの目元が、
ほんの少しだけ、穏やかに光った。
⸻
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、
感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。
皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。
誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。
これからもよろしくお願いします。




