第4話 ゴブリンは倒せても、空腹は倒せない
――村の空気は、まだ重かった。
俺――マスクは、村人たちにぐるりと囲まれていた。
全員、半歩引いた距離。
手には鍬や棒、申し訳程度の武器。
「……で」
最初に口を開いたのは、
さっき俺を庇ってくれた少女だった。
「あなたは……何者ですか?」
真っ直ぐな視線。
警戒しているが、敵意はない。
「……えっと」
俺は少し考えた末、正直に言った。
「……通りすがりの……マスクだ」
「……マスク?」
「名前だ」
ざわっ、と周囲がどよめく。
「名前が……マスク……?」
「覆面の化け物じゃなくて……人間……?」
いや、反応は分かる。
俺だって信じない。
「……とりあえず」
腹が鳴った。
ぐぅ、と。
最悪のタイミングで。
「……すまん」
俺は頭を下げた。
「事情は後でいい。
ゴブリンなら、倒せる」
村人たちが、顔を見合わせる。
「だから……」
俺は、できるだけ低姿勢で言った。
「何か、飯をくれないか」
⸻
「……ゴブリンを、倒せる?」
村長らしき老人が、疑わしげに目を細めた。
「お前一人でか?」
「……一人でだ」
「武器も持たずに?」
「……素手だ」
沈黙。
次の瞬間。
「「「………………は?」」」
村人全員の声が、綺麗に重なった。
「いやいやいや!」
「無理だろ!?」
「ゴブリンは三人がかりでも危ないんだぞ!?」
少女――リリアが、俺を見て口を開く。
「……本当なんですか?」
俺は、少しだけ目を逸らした。
「……さっき、森で襲われた」
「……何体?」
「……五」
どよめき、二回目。
「ご、五体!?」
「嘘だろ!?」
「武器なしで!?」
俺は、無意識に言っていた。
「……エルボーと、ネックロックと……
スピアーで……」
「……ちょっと待ってください」
リリアが、片手を上げる。
「それ……
戦闘方法としておかしいです」
「……そうなのか?」
「そうです!!」
即答だった。
「普通は剣か、槍か、魔法です!
殴って倒すのは、
最後の最後の非常手段です!」
村人たちが一斉に頷く。
「そうだ!」
「素手で行くやつはいない!」
俺は、困ったように頭を掻いた。
「……でも、剣とか……
使えないんだ」
「……は?」
「……持つと、落ちる」
実際、さっき試した。
木の棒を持った瞬間、手から滑り落ちた。
「……呪い、か何かですか?」
リリアが真剣な顔で聞いてくる。
「……たぶん」
というか、確実に。
「……覆面のせいだ」
全員の視線が、俺の顔に集まる。
「……そのマスク」
村長が、慎重に言った。
「外せんのか?」
「……無理だ」
引っ張っても、
殴っても、
水に沈めても、無理だった。
「……そうか」
村長は、深く溜息をついた。
「なら……」
少し間を置いて。
「ゴブリンを倒せるなら、
飯ぐらいは出そう」
「……助かる」
正直、涙が出そうだった。
⸻
その後、俺は簡単に事情を説明した。
……できる範囲で。
異世界?
女神?
勘違い?
全部話したら、
今度こそ追い出される。
「……つまり」
リリアが、腕を組む。
「あなたは、
剣も魔法も使えないのに、
素手でゴブリンを倒す怪力の人」
「……そうなる」
「……しかも、覆面」
「……ああ」
数秒、沈黙。
そして。
「……異常ですね」
真顔で言われた。
「ですよね」
即答した。
⸻
その夜。
久しぶりに、
温かい飯を食った。
硬いパン。
薄いスープ。
それでも――
「……うまい……」
腹が満たされると、
少しだけ、心も落ち着く。
俺は、ぼんやりと思った。
――この村。
しばらく、世話になることになりそうだ。
覆面の怪物として、
ではなく。
腹を空かせた一人の人間として。
⸻
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