第44話 勝者が背負うもの
――リングが、消えた。
白いロープがほどけるように薄れ、
結界も、音もなく解けていく。
村の中央に残ったのは、
踏み固められた地面と、
倒れ伏すオーク隊長だけだった。
俺――マスクは、
その場から一歩も動かなかった。
勝ったからといって、
すぐ終われるわけじゃない。
⸻
「……終わった、のか?」
誰かが、
恐る恐る口を開く。
続いて、
村長が前に出てきた。
「……本当に……
助かったのか……?」
「……ああ」
短く答える。
「……少なくとも、
今すぐ襲ってくることはない」
それだけで、
村人たちは膝から力を抜いた。
泣く者。
座り込む者。
ただ、空を見る者。
⸻
だが――
問題は、まだ終わっていない。
俺は、
オーク隊長の前に立つ。
「……生きてる」
意識は、
ある。
だが、
動けない。
⸻
「……殺さないのか」
隊長が、
低く言った。
憎しみは、
もうない。
ただの確認だ。
「……殺さない」
即答した。
「……理由は?」
「……勝ったからだ」
それだけ。
⸻
オーク隊長は、
少し目を閉じた。
「……なるほど」
短く笑う。
「……なら、
我らは退く」
「……退く?」
「……命令は、
“勝て”だった」
視線を、
空へ向ける。
「……負けた以上、
ここに用はない」
⸻
「……命令者は?」
問いかける。
隊長は、
少しだけ黙ったあと、言った。
「……空の向こうだ」
それだけ。
それ以上は、
語らない。
⸻
俺は、
女神を見る。
「……聞いてるだろ」
「……え、
えーっと……」
女神は、
明らかに目を逸らした。
「……あれ?
なんで私、
汗かいてるんでしょう?」
「……お前だな」
「……ち、違いますよ!
たぶん!
半分くらい!」
「……半分は
認めるんだな」
⸻
女神は、
咳払いをして、
神妙な顔になる。
「……今回の件、
完全に私の管轄ミスです」
村人たちが、
ざわつく。
「……オークの動きが
おかしかったのは」
一拍。
「……空の存在が、
余計な“刺激”を
与えていたせいです」
「……やっぱりか」
⸻
「……ただし!」
女神が、
慌てて続ける。
「全部を止めると、
世界のバランスが
崩れます!」
「……便利な言葉だな」
「神界では
よく使います!」
堂々と言うな。
⸻
「……だから」
女神は、
俺を見る。
「今回の件は、
あなたが勝って終わらせた」
「……その結果」
少し、
真面目な声になる。
「空の存在は、
しばらく表に出てこられません」
それは、
確かな“成果”だった。
⸻
オーク隊長が、
部下に支えられて立ち上がる。
「……覆面」
「……なんだ」
「……次は」
一瞬、
視線が鋭くなる。
「……戦場は、
もっと広いぞ」
「……だろうな」
否定は、
しない。
⸻
オークたちは、
森へ引いていく。
誰も、
追わない。
勝者は、
追撃しない。
それもまた、
決着の一部だ。
⸻
村に、
静けさが戻る。
そして――
ゆっくりと、
人の気配が戻る。
「……ありがとう」
村長が、
深く頭を下げる。
それに続いて、
村人たちも。
「……礼はいらない」
俺は、
首を振る。
「……やったのは、
俺の都合だ」
本音だった。
⸻
女神が、
小さく言う。
「……勝者って、
大変ですね」
「……ああ」
頷く。
「……勝った瞬間から、
後始末が始まる」
それが、
現実だ。
⸻
夜。
村の明かりが、
一つずつ灯る。
戦いは終わった。
だが――
背負うものは、
確実に増えた。
期待。
関係。
因縁。
そして――
逃げられない立場。
⸻
マスクに、
そっと触れる。
外れない。
変わらない。
だが――
もう、
嫌ではなかった。
「……これが、
勝った後か」
小さく、
呟く。
勝者は、
拍手より先に、
責任を背負う。
それが、
この世界のルールらしい。
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