第43話 決着、3カウントの意味
⸻
――静かなリング。
俺――マスクと、
オーク隊長だけが立っている。
息遣いが、
はっきり聞こえる距離。
観客席は、
相変わらず静まり返ったままだ。
だが――
誰一人、目を逸らしていない。
⸻
「……来い」
俺は、
短く言った。
「……今度こそ、
正面からだ」
オーク隊長は、
一瞬だけ笑った。
「……いいだろう」
斧を、
捨てる。
それだけで、
空気が変わった。
⸻
肉弾戦。
拳と、
拳。
重い衝撃。
互いに、
引かない。
技名も、
演出もない。
ただ――
倒すための動き。
⸻
「……っ!」
俺は、
踏み込む。
腰を落とす。
バックを取る。
「……終わりだ」
低く言って、
身体を反転させる。
ブレーンバスター。
派手じゃない。
だが――
確実。
オーク隊長の身体が、
マットに叩きつけられる。
ドン。
⸻
俺は、
すぐに覆い被さる。
押さえ込む。
逃がさない。
ここで、
殴らない。
蹴らない。
押さえる。
⸻
女神レフェリーが、
膝をつく。
震える声で――
「……ワン」
床を、
叩く音。
⸻
オーク隊長が、
もがく。
力は、
もう残っていない。
「……ツー」
⸻
その瞬間。
俺は、
ふと考えた。
――なぜ、
3カウントなんだ?
1でも、
2でも、
いいはずなのに。
⸻
答えは、
すぐに来た。
待つためだ。
立ち上がれるか。
まだ、やるか。
本当に、終わりか。
その全部を――
相手に、確認させるための時間。
⸻
「……スリー!」
乾いた音。
3カウント。
⸻
試合は、
終わった。
リングが、
揺れない。
誰も、
声を出さない。
だが――
終わったことだけは、
全員が分かっている。
⸻
俺は、
ゆっくり立ち上がる。
観客席を、
まだ見ない。
振り返らない。
それでいい。
⸻
オーク隊長は、
仰向けのまま、
天を見ていた。
「……なるほどな」
小さく、
笑う。
「……3つ、数えられるまで……
やめさせない、か」
「……ああ」
短く答える。
「……それが、
決着だ」
⸻
女神レフェリーが、
静かに宣告する。
「……勝者……
マスク……」
声は、
誇らしげでも、
楽しそうでもない。
ただ、事実を告げる声。
⸻
リングの外。
誰かが、
息を吐いた。
次に、
別の誰か。
そして――
拍手が、ひとつ。
――パン。
小さく、
控えめな音。
それでも、
十分だった。
⸻
俺は、
まだ観客を見ない。
だが――
背中に、何かが届いた。
声じゃない。
力でもない。
理解。
⸻
3カウントの意味。
それは、
叩き潰すことじゃない。
終わらせることを、
認めさせること。
そして――
終わった後も、
立たせてやること。
⸻
俺は、
リングの中央で、
静かに息を吐いた。
この勝利は、
誇るものじゃない。
ただ――
必要だった。
それだけだ。
⸻
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、
感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。
皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。
誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。
これからもよろしくお願いします。




