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第40話 声がなくても、立てるか





 ――静かだった。


 あまりにも、静かすぎた。


 村の中央。

 リングの外。

 誰一人、声を出していない。


 息を呑む音すら、

 聞こえない。


 俺――マスクは、

 リングの上で膝をついていた。


「……」


 体が、重い。


 さっきまで確かにあった力が、

 嘘みたいに引いている。


 声援ブースト。

 反動。


 分かっていたことだ。


 分かっていた――

 はずだった。



「……立てないか?」


 オーク隊長の声が、

 やけに大きく聞こえる。


「声がなければ、

 ただの覆面だな」


 斧を、

 軽く地面に当てる。


 余裕。

 確信。


「……ヒーローとは、

 脆いものだ」



 女神レフェリーが、

 一歩前に出かけて――

 止まる。


 何も言えない。


 裁定は、

 すべて正しい。


 ルールは、

 守られている。


 だからこそ、

 助けられない。



 俺は、

 拳を握ろうとして――

 力が入らない。


「……情けねぇな」


 自分で、

 呟く。


 さっきまで、

 あれだけ動けたのに。


 声があれば。

 期待があれば。


 ――そんな自分に、

 気づいてしまう。



「……なぁ」


 小さく、

 呟いた。


 誰に向けた言葉でもない。


「……俺、

 いつから

 声がないと

 立てなくなった?」


 転生前。


 誰も見ていなかった。

 誰も期待していなかった。


 それでも――

 あの時。


 子供を、

 助けに飛び出した。


 声援なんて、

 なかった。



 その記憶が、

 胸に落ちる。


「……そうだ」


 息を、

 ゆっくり吸う。


「……最初から、

 誰も

 応援してなかった」


 なのに、

 動いた。


 理由は――

 簡単だ。



「……俺が、

 嫌だったからだ」


 見過ごすのが。

 逃げるのが。

 何もしない自分が。


 それだけ。



 オーク隊長が、

 一歩近づく。


「……まだ、

 終わらんのか」


「……ああ」


 声は、

 小さい。


 だが――

 確かだった。



 俺は、

 ロープに手をかける。


 引き寄せる。


 震える腕で――

 立ち上がる。


「……!」


 村の誰かが、

 思わず息を吸った。


 だが――

 誰も声を出さない。



「……ほう」


 オーク隊長が、

 目を細める。


「声がないのに、

 立つか」


「……ああ」


 一歩、

 前に出る。


「……これは」


 マスクの奥で、

 目を閉じる。


「俺の問題だ」



 女神レフェリーが、

 小さく呟く。


「……ブースト、

 ゼロ」


「……でも」


 目を見開く。


「……安定してる……?」



 確かに。


 派手な力は、

 もうない。


 だが――

 揺れていない。


 期待にも。

 恐怖にも。



「……強くなった、

 わけじゃない」


 俺は、

 構えを取る。


「……元に、

 戻っただけだ」



 オーク隊長が、

 舌打ちする。


「……つまらんな」


「……悪いな」


 短く返す。


「……派手なのは、

 得意じゃない」



 リングの外。


 リリアが、

 唇を噛みしめている。


 声は出さない。


 だが――

 目を逸らさない。


 それだけで、

 十分だった。



 女神が、

 笛を構える。


「……試合は、

 続行です」


 声は、

 静かだ。



 リングの上。


 声援は、

 ない。


 歓声も、

 拍手も。


 だが――

 逃げ場も、

 言い訳も、

 もうなかった。


 ここから先は、

 ただ――


 自分で立つだけ。




ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。


皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

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