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第3話 覆面は綺麗になったが、人生は綺麗にならなかった



 ――血の匂いが、鼻について離れない。


「……最悪だ……」


 森の中、俺は川辺にしゃがみ込み、

 腕についたゴブリンの返り血を見下ろしていた。


 ぬるりとした赤黒い液体。

 正直、触りたくもない。


「……はぁ……」


 溜息をつきながら、川の水に手を突っ込む。


 冷たい。

 現実感が、嫌になるほどはっきりしている。


 腕をこすり、血を洗い流す。


「……落ちないな……」


 何度も水をかける。

 それでも、完全には落ちない。


 ――その流れで、

 ふと、水面に顔を近づけた。


「…………」


 俺は、そこで固まった。


「……え?」


 マスクが、綺麗だった。


 ついさっきまで、

 返り血でベッタベタだったはずの覆面が――


 新品みたいにピカピカになっている。


「……は?」


 恐る恐る、水面に顔を突っ込む。


 ――ざぶん。


 顔を上げる。


「………………」


 水滴ひとつ残っていない。


「……ちょっと待て」


 もう一度。


 わざと顔を水に沈め、

 左右に振る。


 ――ざばざば。


 顔を上げる。


「………………」


 やっぱり、乾いている。


「……自動洗浄?」


 試しに、泥を手で掬って、

 マスクに塗りつけてみる。


 ぬちゃ。


 ――次の瞬間。


 すっと消えた。


「………………」


 数秒、無言。


 そして。


「……いや、そこ要る?」


 思わず、空に向かってツッコミを入れた。


「外れないマスクはそのままで、

 自動洗浄と防水だけ完璧とか、

 優先順位おかしいだろ!」


 返事はない。

 女神は今日も仕事をしていない。


「……無駄に高性能だな……」


 愕然とする俺の横で、

 川の流れだけが、さらさらと音を立てていた。



「……さて」


 ひとまず、血の匂いは落ちた。

 体も問題なく動く。


 だが――


「ここ、どこだよ」


 森しか見えない。


 人の気配も、道も、何もない。


 ……いや。


「……ん?」


 耳を澄ます。


 すると。


 遠くから、微かに――

 人の声。


「……村、か?」


 理由は分からない。

 でも、方向だけははっきり分かる。


 ――マスクのおかげ、らしい。


「……便利なのか、不便なのか……」


 ぼやきながら、

 音のする方へ歩き出した。



 しばらく進むと、

 木々の隙間から、開けた景色が見えてきた。


 木造の家。

 畑。

 煙の上がるかまど。


「……村だ」


 文明を見た安心感と同時に、

 嫌な予感が胸をよぎる。


「……この格好で行くの、ヤバくないか?」


 覆面。

 血は落ちているが、

 どう見ても怪しい。


 だが、他に選択肢はない。


「……腹も減ったし……」


 一歩、村に足を踏み入れた。


 ――その瞬間。


「……?」


 近くにいた村人が、

 俺を見て、動きを止めた。


 次に。


「……っ!?」


 誰かが、息を呑む音。


 視線が、集まる。


「……え?」


 空気が、一気に凍りついた。


 俺は、ゆっくりと手を上げた。


「……えっと……怪しい者じゃ……」


 言い終わる前に。


「――で、出たぁぁぁ!!」


「覆面の魔物だ!!」


「武器を持て!!」


 一斉に、悲鳴。


「待て待て待て!!」


 俺は慌てて両手を振る。


「違う! 俺は人間だ!

 襲わない! 食わない!」


 だが。


 覆面のせいで、

 説得力はゼロだった。


 その時。


「……待ってください!」


 凛とした声が、空気を切った。


 人混みの奥から、

 一人の少女が前に出てくる。


 白いローブ。

 少し緊張した表情。


「その人……

 魔物じゃありません」


 少女は、俺を見上げて言った。


「……少なくとも、

 悪意は感じません」


「……え?」


 村人たちがざわつく。


 俺は、心の中で思った。


(……助かった……)


 そして同時に。


(……この人、

 俺の人生に関わってくるな……)


 そんな、よく分からない予感がした。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。


皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

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