第38話 声援は、力になる。ただし――
――歓声が、止まらない。
「マスク!!」
「負けるな!!」
「立てぇ!!」
結界の内側。
村人たちの声が、重なり、揺れ、一つの塊になっていた。
俺――マスクは、リングの中央で立っていた。
「……来てるな」
体が、熱い。
筋肉が、
普段よりも軽い。
呼吸が、
深くなる。
疲労が、後退していく。
⸻
「……なるほど」
オーク隊長が、
低く唸る。
「観客を使うか」
「……違う」
俺は、
ゆっくり拳を握る。
「使ってない」
胸に、
確かな感触がある。
「……届いてるだけだ」
⸻
その瞬間。
マスクが、変わった。
派手じゃない。
光り輝くわけでもない。
ただ――
目の周りのラインが、
はっきりとした赤に変わる。
「……あれ?」
リリアが、
気づく。
「……マスク、
ちょっと……」
違う。
強そうになった、
というより――
“立ち方”が変わった。
⸻
「……ステータス上昇、
確認!」
女神レフェリーが、
慌てて空中を操作する。
「筋力・反応速度・
耐久力――」
目を見開く。
「……すべて、
観客依存型上昇です!」
「……聞いてないぞ」
「私も初めてです!!」
女神、
ちょっと焦ってる。
⸻
「……欠点は?」
俺は、
すぐに聞いた。
女神は、
一瞬黙ってから言う。
「……声援が、
止まった瞬間」
一拍。
「一気に反動が来ます」
「……やっぱりな」
⸻
オーク隊長が、
構えを変える。
「……面白い」
口角が、
吊り上がる。
「ならば――」
斧を、
地面に叩きつける。
「黙らせればいい」
⸻
リング外。
オークたちが、
一斉に動く。
威嚇。
怒号。
挑発。
だが――
「……効かない」
声援は、
消えない。
むしろ、
強くなる。
⸻
「マスク!!」
「倒せ!!」
「負けるなぁ!!」
その瞬間。
体が、
自然に動いた。
「……っ!」
踏み込む。
今までより、
半歩、速い。
「ショルダータックル!!」
オーク隊長を、
正面から吹き飛ばす。
ドン!!
確かな手応え。
⸻
「……くっ」
隊長が、
転がる。
初めて、
余裕が消えた。
「……これが」
俺は、
息を吐く。
「声援の力だ」
⸻
だが――
同時に、気づいてしまった。
「……あ」
胸の奥。
気持ちいい。
強くなる。
応えられる。
期待される。
その感覚が、
少しだけ、
危険なほど心地いい。
⸻
「……マスク?」
リリアの声が、
遠く聞こえる。
「……大丈夫?」
「……ああ」
答える。
だが――
自分でも分かる。
この力に、
溺れたら終わりだ。
⸻
女神が、
小さく呟く。
「……声援ブーストは、
“信頼”が形になったもの」
「……でも」
不安そうに言う。
「それを
求め始めたら、
ヒーローは壊れます」
「……分かってる」
拳を、
開く。
「……だから」
オーク隊長を見る。
「……ここで、
終わらせる」
⸻
リングが、
静かに震える。
声援は、
今も続いている。
だが――
それに頼り切る気はない。
俺は、
俺の意志で立つ。
声は、
背中を押すだけだ。
⸻
オーク隊長が、
斧を構え直す。
「……ならば」
低く、
吠える。
「その力が消える前に、
叩き潰す」
ヒールの狙いは、
はっきりした。
“声援が尽きる瞬間”。
それが、
次の山場になる。
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