第35話 ヒールは、ルールを理解してから壊しに来る
――リングが、張られた。
村の中央。
地面に、白いロープが浮かび上がり、
四角く空間を区切る。
「……すげ……」
「……本当に、
囲われてる……」
村人たちは、
見えない結界の内側で息を呑んでいた。
恐怖はある。
だが――
襲われないという確信がある。
⸻
「ほぉ……」
森の奥。
オーク隊長が、
リングを見て笑った。
「これが、
貴様の戦場か」
その一言で――
オークたちは理解した。
ここは戦える場所だ、と。
⸻
オーク隊長が、
ゆっくりとリングへ向かう。
だが――
一歩、踏み出さない。
「……?」
リング外。
オークたちは、
あえて距離を取る。
「……来ない?」
リリアが、
不安そうに呟く。
「……来るさ」
俺――マスクは、
低く答える。
「……ヒールの、
基本ムーブだ」
⸻
「グルル……」
オークの一体が、
リングの外から叫ぶ。
挑発。
罵声。
唾。
「……」
女神レフェリーが、
笛を鳴らす。
「リング外からの挑発は、
反則ではありませーん!」
「……だろうな」
⸻
オーク隊長は、
腕を組んだ。
「焦るな」
「まずは――
観客を煽れ」
オークたちが、
一斉に動く。
リング外で、
地面を叩く。
武器を鳴らす。
咆哮を上げる。
――威圧パフォーマンス。
⸻
「……っ」
子供たちが、
思わず後ずさる。
だが――
結界が、揺らがない。
「……効かないな」
俺は、
構えを解かない。
⸻
「ならば」
隊長が、
口角を上げる。
「ルールを、
使おう」
オーク一体が、
わざと――
リングのロープに触れる。
「……お?」
瞬間。
ロープが、
赤く光る。
「リング侵入未遂!」
女神が、
笛を鳴らす。
「未侵入なので
反則ではありませーん!」
「……ぎりぎり、
攻めてきたな」
⸻
次。
オークが、
仲間を突き飛ばす。
リングへ――
“押し込む”形で。
「……!」
だが――
押されたオークは、
ロープに弾かれて転がる。
「……ダメか」
隊長は、
冷静だった。
「なら――」
視線が、
俺に向く。
「誘い出せ」
⸻
オーク隊長が、
リングへ上がった。
堂々と。
「……来たな」
「確認だ」
隊長は、
両腕を広げる。
「貴様が、
一人かどうか」
「……一人だ」
「なら――」
隊長が、
ニヤリと笑う。
「足りんな」
⸻
その瞬間。
背後。
「……っ!」
リング外から、
オークが――
石を投げた。
だが――
石は、
結界に弾かれて落ちる。
「反則ではありませーん!」
女神が、
楽しそうに言う。
「リング外からの攻撃は、
無効です!」
「……チッ」
オーク隊長が、
舌打ちする。
⸻
「だが」
隊長は、
視線を逸らさない。
「レフェリーは、
万能ではない」
その瞬間。
オーク隊長が、
わざと転ぶ。
「……?」
倒れ込み、
肩を押さえる。
「……あー!
今のは危険行為ですー!」
女神が、
慌てて駆け寄る。
「……」
俺は、
動かない。
「……演技、
上手いな」
⸻
その隙に。
リング外のオークが、
ロープを引いた。
ロープが、
わずかにたわむ。
「……!」
踏ん張る。
「反則――」
女神が、
気づいた瞬間。
「……レフェリー!」
隊長が、
大声を上げる。
「今のは、
俺が倒れた衝撃だ!」
「……え?」
女神、
一瞬迷う。
「……判断、
保留です!」
「……くそ」
完全に、
ヒールだ。
⸻
リングの外。
オークたちは、
観客を煽りながら、
ルールの隙を探している。
リングの中。
俺は、
構えを低くする。
「……なるほど」
理解した。
「……こいつら」
“プロレス”を、
分かってやってる。
⸻
オーク隊長が、
笑った。
「貴様の舞台だろう?」
「なら――」
斧を、
軽く構える。
「最高の悪役を、
見せてやる」
観客席(村)が、
ざわめく。
恐怖と、
怒りと。
そして――
感情が、
動き始めた。
⸻
マスクの奥で、
心臓が強く打つ。
「……来いよ」
俺は、
はっきり言った。
「……正々堂々なんて、
期待してない」
女神レフェリーが、
笛を構える。
「それでは!」
楽しそうに。
「ヒール vs 覆面ヒーロー!
試合、再開!
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