第32話 オークは、命令で動いていた
――静寂は、長く続かなかった。
倒れたオークたちの向こう、
森の奥から――
ゆっくりとした足音。
「……来る」
俺――マスクは、
自然と前に出た。
リリアの前に、
立つ。
⸻
木々が、左右に押し分けられる。
現れたのは――
「……でか……」
リリアが、息を呑む。
オーク。
だが、
今までの個体とは明らかに違う。
•背丈は一回り以上大きい
•体には粗末だが統一された鎧
•手には、使い込まれた大斧
そして何より――
「……目だ」
俺は、
低く呟く。
獣の目じゃない。
状況を測る目。
⸻
オークは、
倒れた仲間を一瞥する。
怒らない。
叫ばない。
ただ――
数を、確認している。
「……隊長、
ってやつか」
俺の言葉に、
オークは反応した。
「……ほう」
喋った。
「……人の言葉……」
リリアが、
思わず後ずさる。
⸻
「貴様が、
覆面か」
低く、
濁った声。
「……そうだが」
「なるほど」
オーク隊長は、
ゆっくり頷いた。
「噂通りだ」
「……噂?」
「空で、
戦った者」
背中が、
冷たくなる。
⸻
「……誰に聞いた」
問いかける。
オーク隊長は、
斧を肩に担いだ。
「教えられている」
それだけで、
十分だった。
誰かが、
情報を流している。
⸻
隊長は、
手を上げる。
すると――
森の奥から、
新たなオークたちが現れる。
だが、
突っ込んでこない。
距離を保ち、
円を描く。
「……完全に、
統率されてる」
これは、
魔物の動きじゃない。
軍隊だ。
⸻
「安心しろ」
隊長が言う。
「ここで、
殺す気はない」
「……は?」
「確認だ」
視線が、
俺に突き刺さる。
「貴様が、
“使えるか”どうか」
斧を、
地面に突き立てる。
「……ふざけるな」
俺は、
構えを取る。
⸻
「一つ、
聞いておこう」
隊長は、
淡々と続ける。
「貴様は、
命令で戦っているか?」
「……違う」
即答。
「ならば」
隊長は、
少しだけ口角を上げた。
「厄介だな」
⸻
次の瞬間。
隊長が、踏み込んだ。
速い。
「……っ!」
斧の一撃。
受け止める――
が、重い。
「……力も、
ある……!」
地面が、
抉れる。
⸻
「……だが」
俺は、
歯を食いしばる。
「……一人だ」
肘を、
叩き込む。
「エルボー!!」
隊長が、
一歩下がる。
――効いた。
⸻
だが。
「良い」
隊長は、
素直に言った。
「やはり、
期待通りだ」
周囲のオークに、
手を振る。
「引け」
即座に、
隊列が崩れ、
後退する。
「……逃がすのか?」
「今日は、
ここまでだ」
隊長は、
振り返りざまに言った。
⸻
「覆面」
低い声。
「次は――
村では済まん」
森に、
姿が消える。
⸻
長い沈黙。
「……マスク」
リリアが、
震える声で言う。
「……今の、
なに……?」
「……敵だ」
はっきり答える。
「……しかも」
拳を、
強く握る。
「……考えて動く、
最悪のタイプだ」
⸻
森の奥。
見えない場所で、
誰かが――
笑っている気がした。
オークは、
駒。
本当の敵は、
まだ姿を見せていない。
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