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第30話 オークは、数だけの問題じゃなかった




 ――森に入った瞬間。


 空気が、変わった。


「……臭い」


 俺――マスクは、足を止める。


 土と汗と、

 それから――血の匂い。


 動物のものじゃない。


「……ここ、

 前はこんなじゃなかったよね」


 リリアの声が、

 少し硬い。


「ああ」


 五感が、

 嫌な答えを返してくる。


「……踏み荒らされてる」



 倒れた木。

 砕けた低木。

 地面に残る、

 重たい足跡。


「……オークだ」


 だが。


「……でかい」


 足跡の幅が、

 異常だった。


「普通のオークより、

 明らかに重い」


「……群れだから?」


「違う」


 即答した。


「……個体差じゃない」


 揃いすぎている。



 森を進む。


 静かすぎる。


 鳥の声が、

 完全に消えている。


「……嫌だな」


 リリアが、

 服の裾を握る。


「……村の見張りも、

 この辺で……」


「……分かってる」


 視線を、

 左右に走らせる。



 ――見つけた。


「……っ」


 思わず、

 息を止める。


 壊された見張り台。


 木製の台は、

 根元から折られ、

 地面に叩きつけられていた。


「……こんなの、

 オーク一匹でやる?」


「……いや」


 しゃがみ込み、

 壊れ方を見る。


「……殴ってる」


「……え?」


「叩き壊したんじゃない」


 指で示す。


「狙って、

 壊してる」


 リリアの顔が、

 青くなる。



「……マスク」


 小さな声。


「……オークって、

 こんなに頭良かった?」


「……本来は違う」


 オークは、

 数で押す魔物だ。


 単純で、

 荒々しい。


「……だが」


 立ち上がる。


「今のは、

 指揮されてる動きだ」


 背中が、

 ひやりとした。



 さらに奥へ。


 そこに――


「……うわ……」


 リリアが、

 声を漏らす。


 簡易的な陣地。


 倒木を組み、

 簡単な壁を作っている。


 粗いが、

 “考えて作った跡”がある。


「……野営?」


「……いや」


 俺は、

 低く言った。


「……前線基地だ」



 地面に、

 奇妙な痕跡があった。


「……足跡が、

 揃ってる……」


「……整列してる」


 信じがたい。


「……訓練、

 してるのか?」


「……可能性はある」


 俺は、

 拳を握る。


「……そして、

 一番嫌な可能性もな」



 リリアが、

 こちらを見る。


「……なに?」


 一拍、

 置いて答える。


「……オークを使ってる誰かがいる」


 森が、

 ざわりと鳴った気がした。



 その時。


「……来るぞ」


 耳が、

 低い振動を捉える。


 地面が、

 微かに揺れる。


 複数。


「……オークだ」


 数は、

 少なくない。


「……リリア」


「……うん」


「ここから先は、

 俺が前に出る」


「……分かってる」


 逃げなかった。


 それが、

 彼女の強さだ。



 木々の間から、

 影が現れる。


 オーク。


 だが――


「……武器、

 揃えてる……」


「……鎧、

 着てる……?」


 粗末だが、

 確かに装備。


 そして――

 隊列を組んでいる。


「……最悪だな」


 俺は、

 低く呟く。


「……これは、

 “狩り”じゃない」


 構えを取る。


「……戦争だ」



 マスクの奥で、

 呼吸を整える。


 ここで、

 選ばなきゃならない。


 ――リングを張るか。

 ――張らずに、戦うか。


 まだ、

 答えは出ていない。


 だが一つだけ、

 確かなことがある。


 この群れを、

 村に行かせるわけにはいかない。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。


皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

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