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第2話 森で目覚めた覆面は、血まみれでプロレスをしていた



 ――冷たい。


 最初に感じたのは、それだった。


「……ん……?」


 目を開けると、そこは天井でも病院でもなく、

 見上げるほど高い木々と、やけに青い空。


「……森?」


 体を起こす。


 どこも痛くない。

 轢かれたはずなのに、骨が折れた感覚もない。


「……夢か? それとも、死後の世界ってやつか?」


 立ち上がろうとして、ふらつく。

 だが、転ぶ前に――


「……あれ?」


 自分の体が、異様に軽い。


 軽いどころか、思った以上に動く。


「……なんだこれ……」


 嫌な予感がしつつ、周囲を見渡すと、

 少し先に小さな川が流れているのが見えた。


「……水、か」


 喉が渇いていた。

 理由は分からないが、とにかく喉が渇いていた。


 川に向かって歩く。


 ――一歩目で、地面を踏み抜きそうになった。


「うおっ!?」


 慌てて踏み直す。


「……俺、こんなに脚力あったか?」


 首を傾げながら、なんとか川辺に辿り着く。


 そして。


 水面を覗き込んだ瞬間――

 俺は、完全に固まった。


「………………は?」


 そこに映っていたのは。


 覆面姿の男だった。


 白と黒を基調にした、やたら作りの良いプロレスマスク。

 目元は鋭く、口元は無駄に精悍。


「………………」


 数秒、思考停止。


 次の瞬間。


「いやいやいやいやいや!!」


 俺は水面に向かって叫んだ。


「なんだこれ!?

 なんで俺、覆面被ってんだ!?」


 両手で顔を掴み、引っ張る。


 ぐいっ。


 ……動かない。


「……え?」


 もう一度。


 ぐいっ、ぐいっ。


「……取れない?」


 力を入れる。


 全力で引っ張る。


「……っ、なんでだよ!?」


 マスクは、まるで皮膚の一部みたいにびくともしない。


 嫌な汗が背中を流れる。


「待て待て待て……

 これ、女神が言ってた“外れない”ってやつか……?」


 そう理解した瞬間。


「――ギィ……ギィ……」


 背後から、聞き慣れない声がした。


 低く、耳障りで、明らかに人間じゃない。


 ゆっくり振り返る。


 そこにいたのは――


「……ゴブリン?」


 緑色の肌。

 小柄な体。

 錆びた武器を持った、三、四……いや、五体。


「……いやいやいや」


 心臓が、嫌な速さで跳ね始める。


「俺、武器ないぞ?」


 一歩、下がる。


 ゴブリンたちはニヤニヤ笑いながら、距離を詰めてくる。


「……待て、落ち着け」


 剣? ない。

 魔法? 使えない。

 逃げる?


「……脚力なら……」


 そう思った瞬間。


 ――頭の中に、動きが流れ込んできた。


 構え。

 踏み込み。

 肘の角度。


「……は?」


 考えてないのに、体が前に出る。


「うおおお!?」


 気づいた時には、

 俺の肘がゴブリンの顔面に叩き込まれていた。


「――エルボー!?」


 自分で叫んで、自分で驚く。


 ゴブリンが吹き飛ぶ。


「え、ちょ、今の俺!?」


 次の一体が背後から飛びかかってくる。


 振り向いた瞬間、

 腕が勝手に首を絡め取った。


「……ネ、ネックロック!?」


 締める。


 ゴブリンが暴れ、やがて崩れ落ちる。


「なにこれ!?

 俺、いつの間にこんなの覚えた!?」


 残りのゴブリンが一斉に突っ込んでくる。


 ――怖い。


 でも。


 体が、止まらない。


「うおおおお!!」


 前に出る。

 低く構え、一直線。


「……ス、スピアァァ!!」


 体当たり。


 まとめて吹き飛ぶゴブリンたち。


 数秒後。


 森は、静まり返っていた。



「………………」


 俺は、その場に立ち尽くす。


 そして、ようやく気づく。


 ――全身、血まみれ。


「……うわ」


 ゴブリンの返り血。

 腕も、胸も、マスクも。


 水面に映る自分は、

 完全にヤバい覆面レスラーだった。


「……なんだよこれ……」


 膝が、少しだけ震える。


「……俺、どうなっちまったんだよ……」


 そう呟いた瞬間。


 マスクの目元が、

 ほんの一瞬――鋭く光った。


 まるで。


 「それでも、立て」と言うみたいに。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。


皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

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