第28話 仮面は、心まで覆う
――夜。
街は、ようやく眠りにつき始めていた。
空は静かで、
星も戻っている。
屋根の上に腰を下ろし、
俺――マスクは、ぼんやりと空を見ていた。
「……勝った、よな」
空の支配者。
リング。
3カウント。
全部、確かに覚えている。
なのに――
「……変だな」
胸の奥が、
落ち着かない。
⸻
「……俺」
自分の声が、
妙に低く聞こえた。
「……あんなこと、
言うタイプだったか?」
――立ち上がることが大事だ
――負けは次に進むための線だ
言葉自体は、
間違ってない。
むしろ、
格好いい。
だが。
「……俺、
こんなに堂々と
語れる人間じゃなかっただろ」
転生前の自分を、
思い出す。
金に困り、
逃げて、
投げやりで。
プロレスマスクを被ったのも、
勇気じゃない。
現実から目を逸らしたかっただけだ。
⸻
風が、
マスクを撫でる。
「……お前か?」
問いかける。
返事は、ない。
だが――
違和感は、確かにある。
⸻
今日の戦い。
あの瞬間。
恐怖は、
あった。
だが同時に――
「……気持ちよかった」
正直な感想だった。
視線を集める。
沈黙を背負う。
期待される。
それに、
応えられる自分がいた。
「……おい」
苦笑する。
「……調子に乗ってないか、俺」
⸻
マスクに、
触れる。
外れない。
びくともしない。
「……なぁ」
小さく、
問いかける。
「……俺が、
俺じゃなくなったら」
喉が、
少し詰まる。
「……それでも、
お前は守ってくれるのか?」
沈黙。
だが――
マスクの奥が、かすかに熱を持つ。
⸻
「……はは」
乾いた笑い。
「……そりゃそうだよな」
守るのは、
役割だ。
中身がどうなろうと、
関係ない。
「……怖いな」
強くなることが。
期待されることが。
自分が変わることが。
それが、
逃げられない。
⸻
足音。
「……ここにいたか」
正統派勇者パーティの剣士だった。
「……どうした」
「……悩んでる顔だ」
「……覆面越しに分かるのか」
「分かる」
短く言われた。
⸻
「……俺」
一瞬、
言葉を選ぶ。
「……変わってきてる」
剣士は、
黙って聞く。
「……強くなってるのは、
マスクのおかげだ」
「……だが」
拳を、
握る。
「……中身まで、
引っ張られてる気がする」
⸻
剣士は、
しばらく空を見てから言った。
「……いいじゃないか」
「……え?」
「変わらない人間など、
いない」
こちらを見る。
「大事なのは、
選んでいるかどうかだ」
「……選ぶ?」
「ああ」
「仮面に
動かされているのか」
「それとも」
はっきり言った。
「仮面を使っているのか」
⸻
言葉が、
胸に落ちる。
「……俺が、
使ってる……?」
「そう見える」
即答だった。
「少なくとも、
今日の3カウントは」
「……」
「お前が
選んだ」
⸻
剣士は、
背を向ける。
「悩め」
「怖がれ」
「……だが」
歩きながら、
一言だけ残す。
「立つ時に、
誰のために立つかだけは
忘れるな」
⸻
一人になる。
夜風が、
冷たい。
「……誰のため、か」
空を見上げる。
街。
子供たち。
怯えていた人々。
「……まだ」
答えは、
一つじゃない。
だが。
「……少なくとも」
マスクに、
そっと触れる。
「……俺は、
逃げて立ってるわけじゃない」
その感触は、
少しだけ――
軽かった。
⸻
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、
感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。
皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。
誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。
これからもよろしくお願いします。




