第27話 3カウントは、支配を終わらせる
――コーナーポストの上。
俺――マスクは、静かに息を整えていた。
見下ろす先には、
空を支配してきた存在。
未だ、倒れない。
未だ、折れない。
『――理解できない』
空の支配者の声が、
初めて揺れていた。
『――なぜ、
立たせぬ』
『――なぜ、
終わらせぬ』
それは、
支配者の問いだった。
⸻
「……終わらせるさ」
俺は、
低く答える。
「……でもな」
ロープを掴む。
「壊さない」
膝を曲げる。
「消さない」
ただ――
「負けを、
受け入れてもらう」
⸻
『――敗北とは、
消失だ』
「……違う」
はっきり言う。
「敗北は、
次に進むための線だ」
それが、
プロレスだ。
⸻
踏み切る。
空を蹴る。
――一瞬、
無音。
「ダイビング・
ボディプレス!!」
落ちる。
重力も、
空間も、
関係ない。
体重と覚悟だけを乗せて。
⸻
ドォン!!!
マットが、
大きく沈む。
空の支配者が、
完全に――
仰向けになる。
⸻
「……今だ」
俺は、
覆いかぶさる。
胸で、
押さえる。
逃げ場は、ない。
⸻
街は、
完全な沈黙だった。
誰も、
声を出さない。
だが――
全員が数えている。
⸻
「……ワン」
空の支配者の体が、
微かに揺れる。
『――』
「……ツー」
空が、
歪む。
だが――
ロープは、切れない。
⸻
「……スリー」
言い切った瞬間。
世界が、止まった。
⸻
次の瞬間。
空の支配者は、
動かなかった。
抵抗しない。
跳ね返らない。
ただ――
受け入れた。
⸻
『――』
長い沈黙の後。
『――理解した』
声は、
もはや威圧を持たない。
『――支配とは、
立ち続けることではない』
『――倒れ、
なお在ること』
それは、
敗北の受容。
⸻
『――覆面の者』
「……なんだ」
『――空は、
静かであるべきだ』
「……ああ」
頷く。
『――だが』
空の支配者は、
続けた。
『――地上の歓声を、
否定はしない』
雲が、
ゆっくりと解けていく。
『――次に現れる時、
私は“裁定”ではなく
“観測”として在ろう』
⸻
影が、
光となって散った。
空は――
ただの空に戻る。
⸻
数秒後。
「……終わった?」
誰かが、
呟く。
次の瞬間。
拍手は、起きなかった。
歓声も、
なかった。
だが――
人々は、
静かに、深く、
頭を下げた。
⸻
俺は、
リングの中央に立つ。
マスクに、
触れる。
「……勝ち方としては」
小さく、
呟く。
「……地味だな」
だが――
それでいい。
⸻
カァン……
遅れて鳴った、
もう一度のゴング。
それは、
勝利を告げる音ではなく――
支配が終わった合図だった。
⸻
リングは、
ゆっくりと消える。
空も、
騒がしくない。
「……さて」
俺は、
歩き出す。
「……次は、
どこだ」
マスクの目元が、
静かに、誇らしく光った。
⸻
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