第26話 支配者は、倒れることを知らない
第26話
支配者は、倒れることを知らない
――リングの中央。
空を支配する存在は、
もはや“風景”ではなかった。
重力。
無音。
空間圧。
それらをまといながらも、
確かに、対峙している。
「……来るぞ」
俺――マスクは、
息を整え、腰を落とした。
『――理解した』
空の支配者の声が、
はっきりと響く。
『――力とは、
示すものだ』
『――支配とは、
倒れぬことだ』
「……違うな」
短く返す。
「立ち上がることだ」
⸻
次の瞬間。
空間が、潰れた。
「……っ!!」
全身に、
重たい圧がかかる。
膝が、
マットに沈む。
「……重力圧殺……」
視界が、
暗くなる。
『――静かに、
終われ』
倒れろ。
黙れ。
そう言われている気がした。
⸻
「……嫌だな」
歯を食いしばる。
「……それは」
腕を、
マットにつく。
「プロレスじゃない」
ゆっくりと、
立ち上がる。
「……っ!?」
空の支配者が、
わずかに揺らいだ。
⸻
「……よし」
ここだ。
ロープに走る。
空間圧が、
足を引き止める。
「……それでも」
踏み込む。
「ラリアァァット!!」
――衝撃。
当たった。
影が、
はっきりと後退する。
「……っ」
続けて、
腰を落とす。
「ブレーンバスター!!」
持ち上げる。
――上がる。
空を支配してきた存在が、
初めて“持ち上がる”。
「……な」
自分でも、
驚く。
「……上がるじゃないか」
⸻
ドォン!!
マットに、
叩きつける。
リングが、
大きく軋んだ。
影が――
倒れた。
⸻
「……」
街が、
息を止める。
誰も、
声を出さない。
だが――
見ている。
沈黙が、
観客として成立していた。
⸻
俺は、
覆いかぶさる。
「……レフェリーはいないな」
なら――
自分で数える。
「……ワン」
影が、
微かに動く。
「……ツー」
空気が、
震える。
2カウント。
⸻
『――』
その瞬間。
影が、
弾けるように跳ね起きた。
「……っ!!」
吹き飛ばされる。
ロープに、
背中を打ち付ける。
「……まだ、か」
『――私は、
倒れる存在ではない』
空の支配者が、
はっきり言う。
『――空は、
常に上にある』
それが、
この存在の“真理”。
⸻
「……ああ」
俺は、
立ち上がる。
「……知ってる」
マスクに、
触れる。
「……だから」
ゆっくり、
構える。
「倒す必要はない」
拳を、
握る。
「寝かせればいい」
⸻
ロープを掴む。
コーナーへ。
空の支配者が、
見上げる。
『――何をする』
「……決まってる」
マスクの目元が、
静かに燃える。
「フィニッシュは、
いつだって一つだ」
――だが。
空の支配者は、
まだ理解していない。
“3カウント”の意味を。
⸻
リングの上。
空と地上。
価値観が、
真正面から衝突していた。
次の一撃で――
勝敗が、見える。
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