第22話 空を支配する存在は、拍手を嫌う
――その異変は、静かに始まった。
翌朝。
町の空が、
妙に静かだった。
「……?」
宿屋の窓から外を見る。
雲はある。
風もある。
だが――
鳥がいない。
「……嫌な感じだな」
五感が、
はっきりと警告を鳴らしていた。
⸻
通りに出ると、
人々も気づき始めている。
「……静かすぎないか?」
「昨日まで、
こんなじゃなかったぞ」
空を見上げる視線が、
自然と増えていく。
「……鐘は?」
誰かが呟く。
だが、
鐘は鳴らない。
鳴らせない。
⸻
正午前。
兵士たちが、
慌ただしく走っていた。
「伝令だ!」
「空が……
おかしい!」
「……おい」
俺は、
一人捕まえて聞く。
「何が起きてる」
「……雲の上から、
降りてこないんです」
「……何が」
兵士は、
喉を鳴らした。
「……“いる”んです」
⸻
町の中央。
正統派勇者パーティが集まっていた。
剣士が、
空を睨んでいる。
「……来たか」
「……知ってる顔だな」
「ワイバーンじゃない」
即答だった。
「……もっと、
賢い」
空気が、
一段重くなる。
⸻
その時。
空が、割れた。
雲が、
円を描くように広がる。
「……っ」
全員が、
息を呑んだ。
そこにいたのは――
巨大な影。
翼は、
ワイバーンの比ではない。
鱗は、
空の色を映し、
輪郭が曖昧。
「……ドラゴン?」
誰かが、
震えた声で言う。
「……違う」
俺は、
はっきり言った。
「……“空そのもの”だ」
影が、
ゆっくりと旋回する。
音が、消える。
風も、
止まる。
⸻
その瞬間。
頭に、声が響いた。
『――静かにしろ』
「……っ!」
膝が、
一瞬だけ落ちかける。
だが、
踏ん張った。
『――拍手も、歓声も、
この空には不要だ』
「……ああ」
俺は、
歯を食いしばる。
「……なるほど」
女神の言葉が、
思い出される。
『空を支配する存在』
「……お前か」
⸻
影が、
ゆっくりと高度を下げる。
だが――
街には降りてこない。
見下ろすだけだ。
「……威圧か」
勇者の剣士が、
低く呟く。
「……いや」
俺は、
拳を握る。
「……“選別”だ」
空に、
許される存在か。
拍手を呼ぶ者か。
静寂を守る者か。
⸻
その時。
町の端で、
子供の泣き声が上がった。
「……っ」
次の瞬間。
『――うるさい』
空気が、
圧縮される。
建物が、
きしむ。
「……やめろ!!」
俺は、
前に出た。
「……相手は、
俺だ」
マスクの目元が、
静かに、しかし強く光る。
可愛さでも、
怒りでもない。
完全な集中。
⸻
影が、
一瞬だけこちらを見る。
『――覆面の者』
直接、
俺を指した。
『――お前は、
空を騒がせすぎた』
胸が、
冷える。
「……悪いな」
俺は、
短く答えた。
「……でも、
守るのはやめない」
空が、
わずかに揺れた。
興味を示した。
⸻
影は、
再び高度を上げる。
『――次に、
判断する』
雲が、
閉じていく。
静寂が、
戻る。
⸻
「……」
町が、
ざわめき始める。
「……今の、
何だ……」
誰も、
答えられない。
勇者の剣士が、
俺を見る。
「……お前、
狙われたな」
「……だな」
マスクに、
触れる。
「……空に嫌われるのは、
初めてだ」
誰も、
笑わなかった。
⸻
その夜。
町の上空は、
不自然なほど、
星が少なかった。
そして、
誰もが分かっていた。
――これは、
前触れにすぎない。
マスクの目元が、
暗闇の中で、
静かに光った。
⸻
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