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第21話 覆面は、酒場では一番目立つ



 ――結論から言うと。


 俺――マスクは、

 酒場にいた。


「……なんでこうなった」


 木製のテーブル。

 ジョッキ。

 周囲のざわめき。


 そして――


「……飲め」


 向かいに座る、

 正統派勇者パーティの剣士。


 鎧は脱いでいるが、

 雰囲気はそのまま堅物だ。


「……断れなかった」


「街を救った礼だ」


「……それは街全体の礼だろ」


「俺個人の話だ」


 短く言われ、

 それ以上言えなかった。



 酒場の視線が、痛い。


「……あれ、覆面だよな?」

「……噂の……」

「……酒、飲めるのか?」


「……飲める」


 飲めるが、

 強くはない。


 ジョッキを持ち上げる。


「……乾杯」


「……乾杯」


 ゴク。


「……苦い」


「酒はそういうものだ」


 剣士は、

 淡々と飲む。



「……聞いていいか」


 剣士が言った。


「なぜ、

 剣を持たない」


「……持てない」


「訓練すれば――」


「……持った瞬間、

 落とす」


「……は?」


 俺は、

 パイプイスを軽く持ち上げる。


「……これだけは、

 なぜか大丈夫」


「……意味が分からん」


「……俺もだ」


 少しだけ、

 笑いが起きた。



「……正直に言う」


 剣士は、

 ジョッキを置く。


「お前を、

 ずっと見世物だと思っていた」


「……知ってる」


「だが」


 真っ直ぐ、

 こちらを見る。


「空で、

 迷わず飛び込んだ」


「……迷ってた」


「それでも、

 飛んだ」


 言葉が、

 胸に残る。



「……お前は」


 剣士が、

 少し考えて言う。


「英雄になりたいのか?」


「……なりたくない」


「……なら、

 なぜ戦う」


 答えは、

 すぐ出た。


「……見過ごせない」


 それだけだった。


 剣士は、

 黙って頷いた。



「……ところで」


 剣士が、

 周囲を見回す。


「その覆面」


「……何だ」


「飯、食いづらくないか」


「……食いづらい」


「……外せば?」


「……外れない」


「……やはり呪いか」


「……たぶん」


 ため息が、

 同時に出た。



 追加の酒が来る。


「……もう一杯」


「……やめとけ」


「今日は奢りだ」


「……余計にやめとけ」


 結局、飲む。


「……うぅ」


 少し、

 頭がふらつく。


「……弱いな」


「……うるさい」



「……なぁ」


 剣士が、

 低い声で言う。


「もし」


 一瞬、

 真剣になる。


「もし、

 お前が倒れたら」


「……」


「俺が、

 剣を振る」


「……頼もしい」


 それだけで、

 十分だった。



 酒場を出る頃。


 夜風が、

 少し冷たい。


「……今日は、

 ありがとう」


「……気にするな」


 剣士は、

 短く言った。


「また、

 飲むか」


「……覆面でも?」


「……覆面でもだ」


 それだけで、

 少し救われた。



 宿屋への帰り道。


「……酒場」


 ぼそっと呟く。


「……覆面でも、

 悪くないな」


 マスクの目元が、

 ほんのり穏やかに光った。


 その背後で――


 空の高み。


 雲の向こうに、

 巨大な影が、

 静かに羽ばたいていた。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。


皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

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