第20話 女神は、静かな夜を許さない
――夜。
宿屋の部屋は、静かだった。
街の騒ぎも落ち着き、
外から聞こえるのは、遠くの話し声と風の音だけ。
「……今日は」
ベッドに仰向けになり、
俺――マスクは呟く。
「……頑張ったと思う」
ワイバーン。
街。
拍手と歓声。
「……もう十分だろ」
目を閉じる。
今日は、
何も起きなくていい。
――そう思った瞬間。
「ふふん!」
「……」
嫌な予感、的中。
⸻
「いやちょっと待て!!」
ガバッと起き上がる。
部屋の中央。
いつの間にか出現している――
「どうでした!?
空中ドロップキック!!」
満面のドヤ顔。
いつもの女神だった。
「……なんで来る」
「見せ場だったので!」
「静かな夜を返せ!!」
女神は、気にせずくるくる回る。
「街の盛り上がり、最高でしたね!
観客数・声援・驚愕指数、
すべて想定以上です!」
「指標が意味不明なんだよ!!」
⸻
「それに」
女神は、
俺のマスクを指差す。
「今回、
空中対応スキルが解放されました!」
「聞いてない!!」
「安心してください!」
「しない!!」
「ワイバーン相手でも
プロレスが成立することが
証明されました!」
「証明しなくてよかった!!」
⸻
女神は、
急に真顔になる。
「……それで」
「……何だ」
「気づいてますよね?」
嫌な間。
「……何を」
「期待が、重くなってること」
言われなくても、分かっている。
「……だから?」
女神は、
いつものドヤ顔に戻る。
「そこで――
次のアップデートです!」
「やめろォォ!!」
⸻
「まず一つ!」
指を立てる。
「“声援ゼロ環境”での
能力低下を緩和しました!」
「余計だ!!」
「二つ目!」
もう一本。
「“空の魔物”に対する
フィニッシュ演出、
派手さ上方修正!」
「演出って言うな!!」
「三つ目!」
満面の笑み。
「街以外でも、
噂が自動拡散される仕様にしました!」
「最悪だよ!!」
頭を抱える。
「俺、
静かに生きたいって
言ってなかったか?」
「言ってました!」
「ならなんで!!」
「覆面ヒーローは
静かに生きられないからです!」
即答だった。
⸻
俺は、
深く息を吐いた。
「……なぁ、女神」
「はい?」
「俺を、
どうしたい」
女神は、
少しだけ考えてから言った。
「……あなた自身が
決めてください」
「……は?」
「マスクを外すか」
女神は、
優しく言う。
「マスクのまま、
進むか」
胸が、
少しだけざわついた。
⸻
「……ちなみに」
女神は、
さらっと続ける。
「次に来るのは――」
わざと、
溜める。
「“空を支配する存在”です」
「……おい」
「ワイバーンは、
前座でした!」
「聞きたくなかった!!」
⸻
光が、
部屋を包む。
「ではでは!」
女神は、
手を振る。
「次の大舞台も、
期待してますよ!」
「期待すんな!!」
叫びは、
虚空に消えた。
⸻
静寂。
「……」
ベッドに、
ゆっくり座り直す。
「……静かな夜は、
幻だったな」
マスクに、
そっと触れる。
外すか。
外さないか。
選択肢は、
増えている。
「……まぁ」
小さく、
笑った。
「……考えるのは、
明日でいいか」
マスクの目元が、
やたらドヤっと光った。
「……お前まで
調子に乗るな」
⸻
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