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第19話 助けた後が、一番しんどい







 ――ワイバーン襲撃から、少し後。


 街は、完全にお祭り騒ぎになっていた。


「こっちの屋根、大丈夫か!?」

「怪我人は!?」

「瓦が割れてるぞ!!」


 兵士と冒険者が走り回る中――


「マスクだ!!」

「覆面がいるぞ!!」


 ……俺の周りだけ、別の騒ぎ。


「……頼むから、

 被害確認を優先してくれ」


 そう言いたかったが、

 言える雰囲気じゃなかった。



「ありがとうございます!!」

「命の恩人です!!」


 市民が、次々と頭を下げてくる。


「……いや、

 俺は……」


「空から蹴り落とすなんて!!」

「スクリュードライバーでしたよね!?」

「回転数、えぐかったです!!」


「そこ、

 細かく覚えなくていいから!!」


 ツッコミが追いつかない。



「……マスクさん!」


 兵士の一人が、

 駆け寄ってくる。


「街として、

 正式にお礼を……」


「……やめてくれ」


 即答。


「俺、

 そういうの苦手だ」


 兵士は、

 一瞬困った顔をしてから――


「……では、

 最低限の補償だけでも」


「……それなら」


 金の話は、

 正直ありがたい。



 少し離れた場所。


 正統派勇者パーティの剣士が、

 腕を組んで立っていた。


「……来たか」


 俺が近づくと、

 剣士は静かに口を開く。


「……街の被害は、

 最小限だ」


「……なら、良かった」


「お前が

 空で落とさなければ、

 もっと燃えていた」


「……結果論だ」


 剣士は、

 しばらく黙ってから言う。


「……正直、

 最初は見世物だと思っていた」


「……だろうな」


「だが――」


 剣士は、

 真っ直ぐ俺を見る。


「空の敵に、

 迷いなく飛び込める奴は

 そういない」


「……俺も、

 迷ってた」


「それでも、

 行っただろ」


「……行ったな」


 短い会話。


 だが、

 空気は少し変わった。



 夕方。


 街の中央広場。


 簡易的な壇が組まれている。


「……嫌な予感しかしない」


 案の定だった。


「本日、

 街を守ってくれた英雄――」


「やめろォォ!!」


 叫ぶ前に、

 拍手。


 歓声。


「マスク!!」

「マスク!!」


 名前を、

 連呼される。


「……勘弁してくれ」


 マスクの中で、

 頭を抱えた。



「……」


 ふと、

 人混みの外を見る。


 宿屋の方角。


「……戻りたい」


 昨日まで、

 ただ寝て食って、

 何も考えなかった部屋。


 あれが、

 もう遠い。


「……なぁ」


 小さく、

 呟く。


「……俺、

 もう普通に歩けないのか?」


 答えは、

 分かっている。


 無理だ。



 その夜。


 宿屋の部屋。


 ベッドに腰掛け、

 静かに息を吐く。


「……英雄、か」


 そんなつもりは、

 一度もなかった。


 ただ、

 飛んだ。

 蹴った。

 落とした。


 それだけだ。


「……それでも」


 マスクに、

 そっと触れる。


「……期待されるのは、

 嫌いじゃない」


 本音だった。


 怖い。

 重い。

 でも――

 誰かの安心になる。


「……やっぱり、

 逃げられないな」


 マスクの目元が、

 静かに光る。


 派手じゃない。

 可愛くもない。


 ただ、

 覚悟を映す色。



 街の外。


 暗い空の向こうで、

 別の影が、

 動いていた。


 ワイバーンよりも、

 賢く。


 ワイバーンよりも、

 静かに。


 “覆面の存在”を、

 見ている何かが。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。


皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

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