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第1話 覆面レスラー(仮)、誕生する


 ――気がつくと、俺は宙に浮いていた。


 いや、正確には「立っている感覚がない」のに、落ちてもいない。

 上下の概念があやふやな、白くて広い空間。


「……夢か?」


 そう思った瞬間、目の前にやたら神々しい光が出現した。


「うーん……これはこれは……」


 声。


 やけに軽い。

 神様っぽさゼロのトーン。


「まさか、覆面レスラーが自己犠牲とは……最近の人間、レベル高いですね」


「……は?」


 次の瞬間、光が形を成す。


 ――女。


 白いローブ。

 長い金髪。

 無駄にでかい羽。


 どう見ても“それっぽい存在”なのに、

 腕を組んで首を傾げている姿が完全に考え中のOLだった。


「えっと……あなたですね。

 覆面を被ったまま子供を守って亡くなった英雄は」


「いや、ちょっと待ってください」


 反射的にツッコミが出た。


「俺、英雄じゃ――」


「はいはい、謙遜はプロレスラーの嗜みですね!」


「違います!

 俺はただの――」


「覆面を被り、最後まで正体を明かさず、

 弱き者を守り、命を落とす……」


 女神は、うっとりした顔で頷く。


「完璧なヒーロームーブです」


「だから違うって!」


 俺は叫んだ。


「俺は銀行強――」


「なるほど!

 リングに向かう途中だったんですね!」


「違う!!」


 声を張り上げる俺を無視して、女神は手元の光る板――

 たぶんステータス画面的な何か――を操作し始める。


「えーっと……覆面レスラー……

 職業:正義の覆面戦士……

 性格:寡黙……

 素顔:謎……」


「勝手に設定盛らないでください!!」


「大丈夫です!」


 女神は満面の笑みで親指を立てた。


「もう処理しちゃいました」


「処理!?」


 嫌な予感しかしない。



「ではご褒美です!」


 女神がパチン、と指を鳴らす。


 次の瞬間、俺の顔に何かが吸い付いた。


「うおっ!?」


 ――マスク。


 さっきまで被っていた安物のプロレスマスクとは、

 明らかに違う質感。


 軽い。

 なのに、外そうとしても――


「……え?」


 外れない。


 引っ張っても、

 爪を引っ掛けても、

 顔と一体化してるみたいに、びくともしない。


「ちょっと! これ取れません!」


「当然です」


 女神はドヤ顔だった。


「それは神具ですから」


「神具!?」


「はい。

 覆面レスラーの魂を象徴する、呪……いえ、祝福の装備です!」


 嫌な言い直しを聞いた気がする。


「安心してください。

 能力も盛っておきました!」


 女神が指を弾く。


 ――その瞬間。


 視界が一気に広がった。


 遠くの音が、全部聞こえる。

 風の流れ、鼓動、空間の“気配”。


「……なにこれ……」


「異世界言語完全理解、鑑定、五感強化!

 それから――」


 女神は、やけに誇らしげに告げた。


「驚異的な身体能力です!」


「……で、代わりに?」


「はい?」


「制限とか、ありますよね?」


 聞く前から分かっていた。

 こういうのは、だいたいオチがある。


 女神は一瞬だけ視線を逸らし、

 次にこう言った。


「剣、魔法、弓……使えません」


「……はい?」


「あなたは覆面レスラーなので!」


 胸を張る女神。


「戦い方は、

 プロレス技と格闘技のみです!」


「異世界でそれ縛り!?」


「でも安心してください」


 女神は指を一本立てた。


「凶器は――

 パイプイスのみ使用可能です!」


「安心できる要素どこだよ!!」



 女神は満足そうに頷く。


「素晴らしいですね。

 覆面の英雄として、異世界を救ってください!」


「待ってください、俺――」


 名前を言おうとした瞬間。


 喉が、詰まった。


「……っ」


 声が出ない。


「?」


 女神が首を傾げる。


「どうしました?」


 必死に口を開く。


「……俺は……マ……」


 その瞬間、自然に言葉が出た。


「――マスクだ」


「はい!」


 女神は満面の笑みで拍手した。


「では、英雄マスク。

 異世界転生、開始です!」


「だから違――」


 視界が、光に包まれる。


 最後に聞こえたのは、

 女神の能天気な声だった。


「怒るとツノが生える仕様、

 付けておきましたからねー!」


「聞いてねぇよぉぉぉ――!!」



 こうして。


 人生に絶望したダメ人間は、

 女神の盛大な勘違いにより――


 異世界の覆面英雄マスクとして、転生した。




ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。


皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

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