第17話 覆面が何もしないと、逆に事件になる
――朝。
宿屋のベッドの上で、
俺――マスクは、真剣な顔をしていた。
「……今日は」
深呼吸。
「……何もしない」
昨日、泣いた。
自分でも引くくらい泣いた。
だから今日は、決めた。
「食って、寝て、
何も起こさない」
完璧な計画だ。
⸻
宿屋の食堂。
「……パンとスープで」
静かに注文。
「……はい」
宿屋の女将が、
俺の顔――マスクを見て、一瞬だけ固まる。
「……今日は、
静かにしてます」
「……それは助かります」
※この時点でフラグ。
⸻
席に座ると、
周囲の客がひそひそし始める。
「……あれ、覆面だよな?」
「……ゴブリンキング倒したって……」
「……違う違う」
俺は、心の中で全力否定。
「今日はただの客だ」
パンを齧る。
スープを飲む。
「……うまい」
何も起きない。
――よし。
⸻
「……ねぇ」
隣の席から、
声。
「……はい?」
振り向く。
「そのマスク、
暑くない?」
「……暑い」
「外せば?」
「……外れない」
「……あ、噂通りだ」
噂、
広がりすぎだろ。
⸻
食事を終え、
町をぶらぶら歩く。
「……散歩だ」
何も考えない。
何もするな。
――五歩後。
「……あ」
「……マスクさん!」
声をかけられる。
「……はい?」
市場のおばちゃん。
「昨日の盗賊の件、
ありがとうね!」
「……どういたしまして」
普通の会話。
問題なし。
――と思ったら。
「ねぇ、
ちょっと持ってって!」
籠を渡される。
「……は?」
「重くてね!」
「……」
断る理由が、ない。
持つ。
軽い。
「……おお」
「すごーい!」
周囲がざわつく。
「……やめてくれ」
俺は、
静かに籠を戻した。
⸻
路地裏。
「……静かなとこ、
見つけた」
壁にもたれ、
息をつく。
「……平和だ」
――次の瞬間。
「……ガサ」
音。
「……来るな」
出てきたのは――
猫。
「……なんだ、
猫か……」
しゃがむ。
撫でる。
――その瞬間。
「……あ」
猫が、
俺の膝に乗った。
「……やめろ」
離れない。
通行人が、
立ち止まる。
「……え、
覆面が猫撫でてる……」
「……かわいい……」
「……やめろォ!!」
マスクが、
勝手にちょっと可愛いデザインになる。
「……やめろォ!!」
⸻
逃げるように、
宿屋へ戻る。
「……今日はもう、
部屋から出ない」
ベッドに寝転ぶ。
「……完璧だ」
天井を見つめる。
何も起きない。
……はずだった。
⸻
コンコン。
「……?」
ノック。
「……マスクさん」
宿屋の女将。
「……なんですか」
「……下の客がですね」
嫌な予感。
「……あなたが
“暇そうだから呼べ”
って……」
「……誰だ」
「……冒険者です」
天井を見つめる。
「……俺、
今日、何もしてないぞ」
マスクの目元が、
無駄にキラッと光る。
“暇そう”という理由だけで、
事件が寄ってくる。
「……ああ」
俺は、
起き上がった。
「……分かった」
諦めは、早い。
「……何もしないで生きるには」
パイプイスを持つ。
「……俺は、
目立ちすぎる」
⸻
廊下を歩きながら、
小さく呟く。
「……次は、
何だ」
その問いに、
町が答える日は――
もう、すぐそこだった。
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