第15話 冒険者ギルドは、最初に現実逃避をした
――冒険者ギルドは、思ったよりも騒がしかった。
木造の建物。
掲示板には依頼書がぎっしり。
中では冒険者たちが酒を飲み、笑い、怒鳴っている。
「……ここか」
俺――マスクは、入口の前で一度立ち止まった。
理由は簡単だ。
目立つ。
覆面。
パイプイス。
街の噂の張本人。
「……入るぞ」
覚悟を決めて、扉を開けた。
――一瞬。
音が、消えた。
笑い声。
話し声。
それらが、綺麗に止まる。
「………………」
数十人分の視線が、
一斉に俺に刺さった。
「……あ」
「……噂の……」
「……マジで来たぞ……」
ひそひそ声。
居心地は、最悪だった。
⸻
「……えっと」
カウンターの奥で、
受付嬢が引きつった笑顔を浮かべる。
「ご用件は……?」
「……仮登録した」
門番からもらった紙を出す。
「……仕事、探してる」
正直に言った。
「……あ、はい」
受付嬢は紙を受け取り、
少しだけ目を泳がせた。
「で、では……
鑑定を……」
「……必要か?」
「……必要です」
断れなかったらしい。
⸻
鑑定用の水晶が、
カウンターに置かれる。
「……では、
手を」
言われた通り、
そっと触れる。
――光。
次の瞬間。
「………………」
受付嬢が、固まった。
「……え?」
覗き込む別の職員。
「……ちょっと、
これ……」
表示された文字を、
読み上げる。
「パワー……異常値」
「耐久……測定不能」
「反射……規格外」
ざわつくギルド内。
だが――
「……人気?」
「……盛り上がり度?」
「……観客補正?」
意味不明な項目が、混じっている。
「……何これ」
受付嬢が、素直な感想を漏らす。
「……俺も知りたい」
心の底から思った。
⸻
「……あの」
後ろから、
冒険者の一人が声をかけてきた。
「武器は?」
「……素手」
「……は?」
「……あと」
俺は、
パイプイスを少し持ち上げた。
「……これ」
「……イス?」
「……パイプイス」
沈黙。
「……剣は?」
「……使えない」
「魔法は?」
「……使えない」
「……弓は?」
「……使えない」
冒険者が、
頭を抱えた。
「……どうやって
ゴブリンキング倒したんだ……」
「……投げた」
「……何を?」
「……ゴブリンを」
「……」
完全に、
会話が噛み合っていなかった。
⸻
「……えーっと」
受付嬢が、咳払いする。
「登録区分ですが……」
紙に、
慎重にペンを走らせる。
「……戦士、ではありません」
「……だろうな」
「……格闘家……?」
「……近い」
「……レスラー……?」
「……それだ」
受付嬢は、
しばらく悩んだ末――
「……職業欄は
**“特殊”**にします」
「……助かる」
「助かりません!!」
横の職員が、
即ツッコミを入れた。
「こんなの前例ありません!!」
「……俺も前例になりたくない」
⸻
「……依頼についてですが」
受付嬢が、
掲示板を指す。
「こちらの依頼は……」
貼られている内容を読む。
「“派手に倒してほしい”」
「“町の人に見せてほしい”」
「“安全第一”」
「……なんだこれ」
プロレス興行か。
「……あと」
受付嬢が、
小声で言う。
「“覆面の人、指名”って
書いてあるのも……」
「……やめてくれ」
完全に、
イベント枠だった。
⸻
ギルドを出る時。
背後から、
声が飛ぶ。
「……おい」
振り返ると、
腕組みした冒険者が立っていた。
「正統派の剣士だ」
その目は、
値踏みするようだった。
「……見世物で
英雄気取りか?」
「……そのつもりはない」
「……じゃあ」
剣士は、
鼻で笑う。
「戦場で、
邪魔だけはするな」
「……それは、
お互い様だ」
一瞬、
空気が張りつめる。
だが、
剣士は踵を返した。
「……面倒なのが来たな」
俺は、ため息をつく。
だが。
ギルドの外では――
「マスクだ……」
「本物だ……」
人々が、
期待の目で見ていた。
「……参ったな」
マスクの目元が、
わずかに光る。
期待されるほど、
厄介になる。
それが、
この町でのルールらしい。
⸻
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