第12話 覆面は礼を言われると、どうしていいか分からない
――村に、久しぶりの静けさが戻った。
ゴブリンの死体は片付けられ、
壊れた柵も、簡易的に直された。
昨日までの不安が、
嘘みたいに消えている。
「……終わった、んだな」
俺は、村の中央で腕を組んでいた。
マスクの目元は、
いつも通り――
何の感情も映さない形。
だが、中身は違った。
少しだけ、
落ち着かない。
⸻
「……マスク」
村長のガルド爺が、
皆を集めて声を張った。
「この村を代表して、
礼を言わせてくれ」
村人たちが、
一斉にこちらを見る。
「ゴブリンキングを倒し、
この村を救ってくれた」
爺は、
ゆっくりと頭を下げた。
「……ありがとう」
次の瞬間。
――全員が、頭を下げた。
「……っ」
息が、詰まる。
こういうのは、
慣れてない。
「……やめてくれ」
思わず、声が出た。
「俺は……
大したこと、してない」
「そんなことはない!」
誰かが言った。
「子供たちを、
守ってくれたじゃないか!」
「……」
言い返せなかった。
⸻
子供たちが、前に出てくる。
「マスクおじちゃん!」
「これ!」
差し出されたのは――
木で作った、小さなマスク。
歪で、
雑で、
でも一生懸命。
「ぼくたちで、つくった!」
「……」
喉の奥が、
少しだけ熱くなる。
「……ありがとう」
短く言うのが、精一杯だった。
⸻
「……マスクさん」
リリアが、
静かに近づいてくる。
「この村に……
残ってくれませんか?」
空気が、止まる。
村人たちの視線が、
一斉に集まる。
「……」
正直、
心が揺れた。
寝る場所。
飯。
人の声。
ここには――
居場所がある。
「……悪い」
俺は、
ゆっくり首を振った。
「俺は……
ここにいると、
ゴブリンを呼ぶ」
「……」
「それに」
言葉を選ぶ。
「俺は、
逃げてきた人間だ」
リリアは、
何も言わずに聞いていた。
「……でも」
俺は、続ける。
「ここで、
逃げなかったことは……
悪くなかった」
リリアが、
小さく微笑む。
「……それなら」
彼女は言った。
「また、
戻ってきてください」
「……ああ」
約束は、
できない。
でも――
否定もしなかった。
⸻
出発の準備は、
簡単だった。
荷物なんて、
ほとんどない。
パイプイスは――
いつの間にか、
普通に手に持っていた。
「……いつからだよ」
マスクの機能に、
今さらツッコんでも仕方ない。
⸻
「マスクおじちゃーん!!」
子供たちが、
見送りに来ている。
「またねー!!」
「つぎも、かってねー!!」
「……努力する」
それで、十分だった。
村の外れで、
俺は一度だけ振り返る。
小さな村。
短い時間。
それでも――
確かに、ここで生きた。
⸻
森へ続く道。
一歩、踏み出す。
その瞬間。
マスクが、少しだけ変わった。
派手でも、
可愛くもない。
ただ――
落ち着いた、シンプルな顔。
「……」
俺は、歩き出す。
名前も、
素顔も、
未来も――
まだ、よく分からない。
それでも。
「……マスク、か」
悪くない。
これは、
人生に絶望したダメ人間が、
仮面を被ったまま、
もう一度歩き出す話だ。
⸻
――村編・完――
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