第10話 森が騒がしい時、大体ろくなことにならない
――朝。
村の空気が、昨日とは違っていた。
「……やっぱり多い」
畑仕事をしていた男が、森の方を見ながら呟く。
「夜中、鳴き声が止まらなかったぞ」
「前は、こんなことなかったよな……」
村人たちは集まって、ひそひそと話していた。
その視線の先に――
俺がいる。
「……俺のせいか?」
思わず、口に出た。
「いや……分からん」
村長のガルド爺が、渋い顔で言う。
「だが、お前さんが来てから
森が騒がしくなったのは事実だ」
「……ですよね」
否定できない。
⸻
「……マスクさん」
リリアが、少し困った顔で近づいてくる。
「今朝、森の見回りに行った人が……」
「……帰ってきてない?」
「……はい」
嫌な予感が、確信に変わる。
「……ゴブリンか」
「たぶん……」
村人たちがざわつく。
「やっぱり来たからじゃないのか?」
「強い奴が来たら、
魔物が寄ってくるって話もあるぞ」
「……それ、俺が“餌”みたいじゃないか」
思わずツッコむ。
だが、誰も笑わない。
⸻
その時。
「……ねぇ」
小さな声。
子供の一人――トムが、
俺の服の端を掴んでいた。
「……マスクおじちゃん」
「……どうした」
「……また、
いなくなっちゃう?」
胸が、きゅっと締まる。
「……逃げない」
即答だった。
「……逃げないよ」
子供は、ほっとした顔で頷いた。
その瞬間。
「……あ」
村人の一人が、俺を見て声を上げる。
「マスクの目……」
「……?」
桶の水に映る自分を見る。
――マスクの目元が、
いつもより鋭くなっていた。
「……無意識かよ」
五感が、勝手に研ぎ澄まされる。
風の音。
土の匂い。
遠くの足音。
「……来るな」
そう、確信した。
⸻
「……行く」
俺は、森の方を見て言った。
「……一人でか?」
村長が問う。
「……俺しか、行けない」
素手でゴブリンを倒せる人間は、
この村に俺しかいない。
「……また、
変な戦い方するんだろ?」
誰かが、ぼそっと言った。
「……否定できない」
「……本当に、
プロレスってやつか?」
「……たぶん、違う」
ツッコミが入り始める。
それでも。
「……頼む」
村人の誰かが、頭を下げた。
「行ってくれ」
その瞬間。
背中に、
視線が集まる感覚がした。
「……声援か?」
子供たちが、叫ぶ。
「がんばれー!」
「マスクおじちゃん!!」
体が、軽くなる。
「……あーもう」
俺は、頭を掻いた。
「……逃げ場、ないな」
⸻
森の入口。
一歩踏み出す前に、
リリアが声をかける。
「……無茶、しないでください」
「……できるだけな」
「……嘘ですね」
「……否定できない」
苦笑する。
リリアは、小さく息を吸って言った。
「……戻ってきてください」
「……努力する」
それで十分だった。
⸻
森に入ると、
空気が変わった。
木々の間を縫う、
複数の気配。
「……やっぱり、増えてる」
しかも――
統率がある。
「……面倒だな」
その時。
足元が、カチリと鳴った。
「……?」
見下ろす。
――地面に、
見覚えのない金属片。
「……?」
次の瞬間。
頭の中に、
嫌な言葉が浮かぶ。
「……まさか……」
罠。
ゴブリンが、
考えて動いている。
「……笑えないな」
マスクの目元が、
はっきりと光った。
怒りでも、
可愛さでもない。
――警戒の色。
「……来るなら来い」
俺は、
拳を握った。
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