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プロローグ ダメ人間は、覆面を被って銀行に向かった


 人生ってやつは、どうしてこうも簡単に詰むんだろう。


 黒崎マコト、三十路手前。

 職なし、貯金なし、未来なし。


 スマホの画面には、赤文字で並ぶ未払い通知。

 家賃、電気、ガス、携帯。

 どれも「最終通告」の文字付きだ。


「……はは」


 乾いた笑いが喉から漏れた。


 努力しなかったわけじゃない。

 でも報われもしなかった。

 気づけば全部がどうでもよくなっていて、

 気づけば“詰み”の位置に立っていた。


 テーブルの上に置かれた、安物のプロレスマスクを見る。


 ネットで三千円。

 用途は――変装。


「人生最後の悪あがき、ってやつか」


 俺は善人じゃない。

 ヒーローでもない。

 だから銀行強盗を思いついた。


 拳銃なんてない。

 脅す度胸もない。

 成功する確率は、たぶん一割以下。


 それでも――

 何もしないよりは、マシだと思った。


 マスクを手に取り、被る。


 視界が狭くなる。

 息が少し苦しい。


「……似合わねぇな」


 鏡に映るのは、情けない覆面男。

 正義の味方でも、レスラーでもない。


 ただの、追い詰められたダメ人間だ。


 俺はアパートを出て、銀行へ向かって歩き出した。



 その途中だった。


「――危ない!!」


 叫び声。


 交差点の向こう側。

 信号無視のトラックが、横断歩道に突っ込んでくる。


 その先にいたのは――

 ランドセルを背負った、小さな子供。


「……っ」


 考える前に、体が動いていた。


「危ない!!」


 叫んで、走って、突き飛ばす。


 子供の体が転がり、

 次の瞬間――


 衝撃。


 視界が白く弾けた。



 ――ああ。


 ここで、俺は死ぬのか。


 銀行にも着けず、

 強盗にもなれず、

 結局、何者にもなれないまま。


 ……でも。


 最後に見えたのは、

 泣きながら名前を呼ぶ子供の顔だった。


「……まぁ……」


 悪くは、ないか。


 そんなことを思ったのが、

 俺の最後の意識だった。



 暗闇。


 そして。


「――あら?」


 やけに軽い声。


「覆面レスラーが、子供を守って亡くなるなんて……」


 次の瞬間、俺の人生は

 とんでもない勘違いに巻き込まれることになる。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。


皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

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