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いまさら好きだと言われても、私たち先日離婚したばかりですが。  作者: 山田ランチ


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第40話 幸せの在り処

 二度目の結婚式ではドレスのお腹周りはあまりきつくせず、裾は引き摺るような長さではなく、あくまで一人で歩けるものにした。視界を遮るようなベールも止めたのは、集まってくれた参列者の顔は良く見て、食事と取りたかったからだった。

 こうしてカトリーヌの希望を詰め込んだ結婚式は、フェリックス六歳半にしてようやく実現した。


「ここまで長かったですね。まさかカトリーヌ様達がもう一度結婚するまでにこんなに掛かるとは思いもしませんでした」


 感慨深そうにそう言ったエルザは自身の支度も終え、すっかり大きくなったお腹では身動きを取るのが大変そうになっていた。


「参列は無理をしなくてもいいのよ? それに立たなくてもいいからね」

「はい、ありがとうございます。でも絶対に参列させて下さいお嬢様」

「もうお嬢様なんて年でもないんだからいい加減に止めて頂戴」


 するとエルザは目に涙を一杯溜めて首を振った。


「いつまでも私の大切なお嬢様です。あ、もちろん坊っちゃんもですよ」


 カトリーヌの手を掴みながらエルザはソファに座っていたルイスを見た。その瞬間、ブッというお茶を吹き出す音と共にジェニーの悲鳴が聞こえる。ルイスの吹き出したお茶から間一髪で逃れたジェニーは大声でルイスを叱った。


「アイビー様に掛かったらどうするんですか!」

「その声の方が大きいだろ!」

「二人共大きいわ」


 カトリーヌとアルベルトの結婚が遅れたのには理由がある。アルベルトが爵位を継承し仕事量が増えたせいもあるが、一番の理由はジェニーの腕の中にいる子供だった。

 カトリーヌに窘められた二人はそっとジェニーの腕の中にいる赤ん坊を覗き込んだ。周囲の騒がしい音など全く意に介さずスヤスヤと眠るのは、まだ生まれて五ヶ月のアルベルトとカトリーヌの長女アイビー。アイビーはミルクでも飲む夢を見ているのか、ぷっくりとした頬を動かしていた。


「この子は大物になりますね」

「確かにな。騒がしいお前の声でも起きないもんな」

「騒がしいだなんて酷いです!」

「ごめんねジェニー。やっぱり式の間は他の者を呼ぶわよ」

「全然問題ありませんよ。可愛くて手放したくないくらいですし、ほら、予行練習にもなりますし……」


 そう言って尻すぼみになったジェニーは顔を真赤にしてルイスを見た。アイビーを抱いていては顔を隠す事も出来ない。ルイスも釣られて真っ赤になり、初々しい二人の姿に大人達はただただ微笑んでいた。


「エルザはもう二度と外で坊っちゃんなんて呼ぶなよ」

「もうこのまま坊っちゃんでもいいじゃありませんか」

「そうよルイス。私だって我慢しているんだからあなたも我慢なさい。私なんか子供がいるのにお嬢様なのよ」

「僕は近衛騎士だぞ! 仲間に聞かれたらと思うと……ゾッとする」


 ルイスはこの春からアルベルトの仕事を引き継ぐ形で国王専属の騎士となっていた。


「でも姉様も随分待たされたよな。海路を使っての貿易を再開させるっていうのは良い事だけど、これからアルベルト様も船に乗るって事だよね? 結婚してもまた離れ離れになる時間が多くなるんだよ。いいの?」

「アルベルト様がしたいと思う事を成して欲しいの。それにフェリックスがいるもの」

「それじゃあ結婚する前とあまり変わらない気もするけど。どこがそんなにいいんだか……」


 大きく伸びをした瞬間、扉の近くにアルベルトの姿が目に入った。


「本当だな。一体どこがいいのか、俺が一番教えて欲しいよ」


 正装をしたアルベルトは髪の毛をオールバックにし、黒に金の刺繍が施された装いが良く似合っていた。


「カトリーヌ、皆も会場に移ってくれ」

「花婿自らが案内しにきて下さったのですか?」

「ルドルフに止められたが我慢できなくてな。今回は異例ばかりの結婚式だが、俺達らしい結婚式で待ち遠しいんだ」

「はい、そうですね」


 衣装の他にも好きにした物の一つが場所だった。式は聖堂ではなくベルトラン家の所有する屋敷で挙げ、誓いの言葉は短く、参加者は身近の招待したい者達だけにして、そこには貴族も平民も関係ない。だから体裁は気にせず、会いたい者達だけが集まる空間に仕上げた。

 広い居間の隅っこではフェリックスとカールが仲良く本を読んでいた。


「何を読んでいるんだ?」


 アルベルトが二人の上から覗き込むと、フェリックスは誇らしげに珍しい草花を集めた図鑑を見せてきた。


「このお花はね、ガブッと中に入ってきた物を食べちゃうんだよ。食べるのは虫だけじゃないんだよ」

「怖い事言うな。カールももっと綺麗な花の図鑑を見せてくれ」

「え? 駄目ですか? 珍しいから心惹かれるっていうのもあるじゃないですか。それにこの花は砂漠の地でしか咲かないようですよ」

「砂漠知ってるよ! 砂が一杯の場所だよ!」

「そうですね、フェリックス様は物知りです! 賢い!」


 そう言って再び図鑑を覗き込んだ。


「フフッ、最近はカールがお気に入りなのよ。昔はあんなにエルザにべったりだったのに」

「確かにな。なんだかこうしてみると精神年齢が同じようにも見えるな」

「フェリックスはカールのように旅をして過ごしたいんですって。なんでも知っているってカールの事を尊敬しているみたいですよ」


 その瞬間、アルベルトは目に見て分かる程固まった。


「アルベルト様? どうされました?」

「……そう言えばフェリックスは剣の修業をしているか? 俺は最近ずっと見ていない気がするが」

「ああ、それなら騎士になるのは止めたみたいです」

「なんだって!? あれだけ騎士になりたいと言っていたのに。でも確かに最近も忙しくて構ってやる時間が取れなかったからな。……よし決めた! 明日は一日フェリックスと剣の訓練だ!」


 その時、カトリーヌはアルベルトの袖をクッと引っ張った。


「明日はカールと共に山に行くみたいですからきっと断られますよ。とても楽しみにしていましたから。それに、私はそろそろ二人の時間も欲しいです」


 最後の方はそっと耳元で囁いた。アルベルトは喉を鳴らした後、腰に手を回してくる。カトリーヌは楽しそうにカールと本を読んでいるフェリックスをそっと横目に微笑んだ。

 

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