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いまさら好きだと言われても、私たち先日離婚したばかりですが。  作者: 山田ランチ


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〈3章〉第25話 攫われた元妻

 王の間に通されたのは使者として来た第三王子のアデルと護衛の三人だった。攻めて来たと報告を受けたが実際は軍を国境に置き、使者だけが来ていた。アデルが話し終えると、国王は鋭い視線でアデル達を睨みつけた。


「まるで我らが王の指輪を盗んだと言っているように聞こえるぞ」


 グロースアーマイゼ国の言い分は、指輪を返せば攻め入らないという内容だった。黒い髪を後ろで一つに結い、白い肌に切れ長の目のアデルからは騎士達よりも危険な雰囲気が漂っていた。


「その指輪はあなた方にとってはただの指輪ですが、我が国にとっては王を示す物なのです」

「何百年もなかったのだから今更不要なのではないか?」


 するとアデルは首を振った。


「むしろあなた達には不要な物のはずです」

「三年前に侵攻しておきながら今度は王子を使者として送って来るか。我が国が幾度も送った使者は入城にすら叶わなかったと聞いているぞ」


 するとアデルは清潭な顔を歪めた。


「貴国から使者は来ておりません」


 すると国王が勢いよく立ち上がった。王の間に一気に緊張感が増す。


「誓って使者は来ておりません」

「ジークフリート、どういう事だ? 使者の選別はお前に任せていたはずだぞ」

「急ぎ調査致します」


 するとアデルは首を振った。


「調査しても無駄でしょう。来ていない者に入城の許可を出す事は出来ません。それともう一つ、あの侵攻は第二王子と第二王子を支持する極少数の者達が単独で起こした事ですので、国の意思とは無関係にございます」

「まさかそれを信じろと?」

「貴国を争いに巻き込んでしまった事をお詫び申し上げます」

「あの侵攻で我が国の民が犠牲になったのだ。詫びだけでは済まないだろう」

「おっしゃる通りですがまずは指輪です。お返し頂ければ陛下はなぜ指輪がこの国から発見されたのかは追求しないと仰っておりました」


 沈黙が流れていく。


「指輪は盗まれた。残念だったな」

「国が滅んでもいいのですか?」

「自国民も犠牲になるぞ」

「本隊はすでに国境に配備済みですので、我が国の被害はないに等しいでしょう」

「随分と強気な発言をする第三王子だな」


 アデルと国王の視線が絡まる。先に緊張を解いたのはアデルの方だった。


「何度も申しておりますが指輪さえ返して頂ければ即退却します」

「ない物はないのだ」

「探されないのですか?」

「あの戦争は第二王子が起こしたものだと言ったな? 第二王子から直接話を聞きたい」

「残念ながら第二王子は長い間行方不明なのです」

「生存の可能性は?」

「遺体が見つかっておりません」

「それでは指輪を見つけたとしても、渡すにはあまりにこちらには利がないようだ」


 アデルの冷えた視線が国王を捉える。そして静かに目を閉じた。


「それではそのように陛下にお伝え致しましょう」


 アデル達が出口に近づいて行く。立ち上がったのはジークフリートだった。


「待ってくれ!」


 一斉に視線がジークフリートに向く。息を呑む音さえ響きそうな中、ジークフリートは震える声で言った。


「指輪を渡せば本当に戦争は起こさないのか?」

「もちろんです」

「ジークフリートどういう事だ」

「申し訳ございません。あの部屋に入ったのは私です」


 一気に辺りがざわめき出す。ジークフリートは真っ青な顔で続けた。


「フェンゼン大公に指輪を渡せば後ろ盾になってくれると言われ、そうしました。そこまで重要な物だとは思わなかったのです」

「お前は他国の第二王子とも繋がっていたのか?」

「まさかありえません!」


 そして緊張に耐えきれなくなったジークフリートは胸を押さえてがたりと膝を突いた。とっさに手を貸そうとしたフィリップは国王の声によって制された。


「罪人に情けをかけるな!」

「……罪人」


 膝を突きながら、ジークフリートは項垂れた。


「お前はモンフォール領の大洪水にも関与しているのか? あの後行った調査では、幾つもの川がモンフォール領に誘導されるように塞がれていたそうだ」

「モンフォール領はただ不幸な災害に巻き込まれただけでしょう?」

「兄上、どこまで関わっているのですか」

「モンフォール領の、古い地図は渡しました」

「誰に渡した!」


 ジークフリートは辺りを見渡した。


「それもフェンゼン大公に……」


 ぽつりと呟いた声に辺りが一瞬にしてざわめいた。


「直ちにフェンゼン大公の身柄を押さえるのだ!」

「どこも同じのようですね」


 アデルは独り言のように吐き捨てた。



 国王がアルベルトに目配せをすると、アルベルトは首から掛けていた紐を取り出した。その先端にはコロンとした金色の指輪が付いている。


「それは、まさかそれは王の指輪?」


 ジークフリートは驚いたまま国王を見つめた。


「幸か不幸か、お前が盗んだ物は偽物だ。本物は私とアルベルトが交互に持ち歩いていたのだ」

「嘘です! あれだけ精巧な偽物が作れる訳がありません!」

「あの部屋の隠し扉は次代の王になる者にだけ開け方が教えられる。だから私はお前にしか明かしておらんかった」

「そんな……私はフィリップも知っているとばかり」


 国王はジークフリートを見つめると立ち上がった。


「お前のした事は重大だぞ」

「私も、私だって、フィリップのように自由に動く身体があれば良かったのです!」


 拳をぎゅっと握りしめ俯く。フィリップはその甲に手を重ねた。


「まだ小さかった頃に交わした約束を覚えていますか?」

「……約束?」

「そうです。僕が兄上の手足となり、王となるあなたを支えると」

「子供の時の話じゃないか」

「でもその未来の為に進んでいました」

「私はただ書庫に籠もって本を読むばかりで誰も私を認めようとはしなかった」

「その知識はいつも私を助けてくれましたよ」


 ジークフリートはその場に泣き崩れた。


「一つは見つかったようですね。それでもう一つの指輪はどこでしょうか?」


 アデルは数歩国王に近づいた。


「生憎一つしか持ち合わせていなくてな。しかしかなり古い物だから、一つ見つかっただけでも凄い事だろう」


 するとアデルは更に前に出た。そこにアルベルトが立ちはだかる。


「第二王子と引き換えです」

「ですから行方不明だと……」

「先程お前達は私に指輪を探すようにと言ったな。どれだけ無謀な事か分かったか? 引き換えにわしが言っているのは人間だ。指輪よりも容易かろう」


 ぎりりと歯を食い縛るように見つめながら、アデルは胸に手を当てた。


「生きてお渡し出来るかは分かりませんが尽力致しましょう」


 国王は離れていく背中に声を投げ掛けた。


「この争いが終わったら無事に王位継承という訳かな?」


 アデルは一瞬足を止めたが、何も言わずに王の間を出て行った。


「あれは第三王子だが、行方不明の第二王子以外はすでに亡くなっている。確か兄妹は七人だったか」


 フィリップはアデルの出ていった出口を見つめていた。


「あの国は大国故に王位継承者が多いからな」

「第二王子は見つかるでしょうか」

「アルベルトよ、お前もフェンゼン大公の捜索に出るのだ」

「副団長大変です! ご子息とカトリーヌ様が消えました!」

 

 アルベルトは国王と顔を見合わせると走り出した。



「まさかあれが偽物だったとは。こうしてはいられないぞ。すぐに祠に行かなくては……」


 フェンゼン大公は慌ただしくなる城を後にした。





「アルベルト様! フェリックス様がいらっしゃいました!」


 騎士の声を聞くなりアルベルトは部屋に飛び込んで行った。


「フェリックス!」


 勢いよく扉を開けると、中には到着していたエルザに抱かれたフェリックスがいた。フェリックスはすぐに発見されたと走りながら聞いてはいたが、こうして姿をすると安堵が広がった。フェリックスはアルベルトの顔を見るなり更に火が付いたように泣き、顔は真っ赤になっている。


「どこも怪我はないか?」


 アルベルトはエルザからフェリックスを抱き上げると腕に抱いた。


「痛む所はないか? どうなんだ?」


 すると嗚咽を繰り返しながら顔を何度も腕で擦った。


「いたく、ないぃ」


 声を押さえてそう言ったフェリックスを褒めた。


「おかあさまは一緒ではないのか?」


 その瞬間、フェリックスは耳を塞ぎたくなるような声で再び泣き出した。


「カトリーヌ様はお姿がお見えにならないのです。フェリックス様は見当たらないカトリーヌ様を探して部屋を出たようです」


 困惑したようにそう言ったエルザの言葉に、アルベルトは意識が遠のきそうになるのを感じた。


「クロードはどこだ?」

「私共が到着した時にはどなたもおられませんでした」


 怒りで身体中の血液が一気に沸騰する。


「フェリックスを連れてモンフォール家の屋敷に戻れ。カトリーヌは私が必ず連れ帰る」

「私にも何か出来る事はございませんか!?」


 今にも泣き出しそうなエルザを見て首を振った。


「フェリックスを頼む」

「お任せください」


 エルザはぎゅっとフェリックスの身体を抱き寄せた。



 アルベルトは王の間に急いで戻ると、国王とフィリップの前で膝を突いた。


「モンフォール家のカトリーヌがクロードに連れ去られたと思われます」

「誰だそれは」

「三年前にベルガー領で受け入れた傭兵の一人です。あの時は兵力が足りず、戦う意志があればベルガー領の領民も、それ以外も受け入れて侵攻を防いでおりました」

「その者が何故だ!」

「分かりません。どうか私にカトリーヌの捜索に行かせて下さい」

「しかし目処は立っているのか? やみくもに探しても手遅れになるだけだぞ」


 アルベルトは手遅れという言葉に唇を噛んだ。そして振り切るように顔を上げた。


「モンフォール領に向かってみようと思います。もし国外に逃亡するのなら、発見されたあの地下空間がグロースアーマイゼ国に繋がっており好都合です。お側に居られず申し訳ございません」

「カトリーヌの捜索を認めよう。無事に救い出して来い」

「はッ!」

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