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第五章

戻ってみれば、教室はシンとしていた。

人気(ひとけ)のない静かな教室。誰もいないので、きっと教室には鍵がかかっているだろう。

そういえば5時間目は移動教室だったことをすっかり忘れていた。

みんな早々とあたしを置いていったらしい。

どうしよう、遅刻して怒られるのもいやだし・・・毎日のように襲ってくる頭痛が都合よく暴れているので、保健室で寝ておこうかな・・・などと考えていた。


ガチャン

物音がした。


ひょこりと顔を出したのは、駿弥の姿だった。

でも何故ここに・・・?

もうとっくに人はいないのかと思っていた。

薄い闇に包まれた教室に独りで・・・かくれんぼでもしていたのだろうか。


「もう、おっそ。待ちくたびれたじゃんか」

「え・・・?」


どうやら駿弥はあたしを態々(わざわざ)待ってくれていた様。

ここで見つかってはサボれなくてちょっと好都合ではないんだが・・・・・・。


「せっかく人が待ってやってたのに何が好都合じゃないだ」

「ごめんなさい・・・というか授業おくれないの?」

「保健室行こう。俺がぶつかってどうのってことにしよっか」


駿弥は教室の鍵を閉めながら言った。

似たような事を考えていたのかぁ・・・・・・。

これで少しは時間稼ぎが出来るよね。

2人きりってのも少し胸が高鳴るかな。


「さっきぶつかって頭打った事にしようか・・・というかなんて理由つければいい?」

「頭関連を希望するぞ・・・」


相変わらずの頭痛持ちですから。

できるならばベッドで寝ていたい。でも、寝込むほどの痛みじゃない。

頭の上に猫でものっかってるかのよう・・・痛いというか違和感の方が強いかもしれない。


保健室の前に着くと、やっぱり人は行き来をしてはいない。

ほとんどの人は授業を真面目に受けてるからね・・・。

すれ違う時の先生の目線が恐ろしい。


「失礼します・・・えっと、この子ぶつかってしまいまして――」


保健室も静まり薄暗い。

もう、しょうがないわねと先生が頭を見てくれる。

どこらへんをぶつけたの?と聞かれちょっと焦った。とりあえず左側をぶつけた事にしておいた。

頭を左右に振られるもんで、内側がグワングワンとする・・・。

そして動きをやめるとジンジンする・・・。もうちょっと丁寧にあつかってほしい。


「あ、新田くんはもういいから。授業行ってらっしゃい?」


先生は優しくそう言った。

新田(にいだ)とは駿弥の苗字。

「でわ・・・」とするする退室した駿弥。

なんだか急に気まずくなってきた・・・。


「うーん、大丈夫そうね。氷でもいる?」

「いえ・・・結構です」


頭を冷やしては余計に頭が痛みだす様な気がして断った。

あたしもペコペコと頭を下げて扉を閉める。

今日は一段と頭が重たいかな・・・。


「わっ!」

「・・・!?」


曲がり角で出てきたのは駿弥である。吃驚した。


「バレなかった?よね・・・今頃俺も呼ばれてるだろうから」


もしかして待っていてくれたのかと思うとなんだか急に暑くなってきた。


「いやぁ・・・ちょっと気になってさ」

「何が・・・?」

「さっき苦しそうな顔してたけど、もしかしてほんとに頭痛かったり?」

「え・・・いやぁ・・・別に」


なんだか我ながらぎこちない喋り方だと思う。

駿弥はあたしに合わせてゆっくり前方へ歩いて行ってくれてるようだ。

移動教室・・・たしか使われていない元1年生の教室だったかな。


「なんかややこしいことになりそうだよなっ。俺が何とかするけどさ」

「お願いします」

「全部誰にも言うなよ。お願いだから」

「はい」


つくづく思っていたが、あたしってなんか誰にでも敬語を使えると云う技があるのかもしれない。

好きな人だから敬語ってわけじゃないと思う。

なんだかこういうシチュエーションは久しぶりな気がして・・・とても懐かしく思う。




そしてここは1年F組という名称の教室である。

駿弥が先に足を踏み入れた。


「おくれてすみませんでした」


駿弥の後ろであたしも一緒になって頭を下げる。

教室のみんなの目がとても恐い・・・恐ろしい。

英語の教師が吃驚した顔でこちらを凝視しているのが頭のてっぺんから解る。


「あのー・・・中西さんとぶつかりまして、それで―――」


さっきの出来事を誰にも聞こえぬように話してくれている。

なんだかこの場を逃げ出したくなるね。

教室にもとても入りづらい。視線は皆駿弥と教師の方を的としてるけれど。


「そうでしたか。御苦労さまでした。さ、中西さんも入ってください。でわ・・・続きはですね、えーっと――」


授業を再開し始めた。スタスタと足音を立てずにあたしは席に着いた。

砕けるような視線が2人を貫く。

そう感じるのはあたしと駿弥が前後の席同士だから・・・。


「ねぇねぇ、何があったの?」


朱があたしの肩を叩いていってくる。

この空気でそんな話をしては結局教師に怒られるかなと思ったので、また後で事情は話すとしておいた。

冷めた空気の中、あたしはなるべく気持ちを縮めて授業を受けていた。

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