第十五章
さっき、あたしが体育館で目にしたものは・・・朱の姿だった。
その朱の顔は綺麗な桃色をして・・・とても幸せそうだった。
こんなことならあたしだって喜んでいられる。
別にこんなに苦しくなったりはしない。
でも、そう・・・・・・その笑顔の理由は。
「んもぉ、体育たのしかったぁー。すごくぅ」
朱はいつもよりはじけた笑顔でいた。
あたしがこんなに暗い気持ちなのに・・・。
朱の事は大好きだけどすごく悔しい。
「どーしたのっ?暗い顔してぇ」
なんだかあたしに「どーだ」といっているように聞こえる・・・。
ほんとうは泣きたい気分だけれど、いつものようにふるまわなくちゃ。
ここで泣いたり、落ち込んだ態度を見せたら・・・それはただのわがままになってしまう。
「ん・・・なんでもない」
頭痛のふりして頭を片手で触る。
こめかみをグリグリと・・・。
「あっそぉ。体育大好きなんだよねぇ」
「そっか。ちょっと・・・ごめん」
すさまじい動きで席をたった。
だって、朱の笑顔を見るのは・・・とても辛いから。
だから他のクラスのあの子の所へ向かう・・・。
「あ、あずちゃ――ん」
実は休み時間とか暇なときはいるもこの子の所に遊びに来てる。
大人っぽい顔立ち。背もあたしより若干高くってとても絵のうまい友達。
「縁ちゃん、あのね・・・」
この子の名前はみどりちゃんではない。ゆかりちゃん。
とりあえず、腕を引いて階段の踊り場へ連れて行く。
この事は誰にも聞かれたくは無いから。
「どぉしたん?あずちゃんらしくないねぇ・・・」
話し方がなまっている・・・何処から来たのか知らないけど小学生のころに転校してきたのは覚えてる。
「さっきの体育の時間で・・・」
あたしはさっき見た事をすべて話した。
そして今まで誰にも喋ったことなかったことも全部。
だって、教えて広まるのもいやだし・・・。
あたしがみたのは、煌びやかな朱の笑顔と腕を組んだ駿弥の姿だった。