表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/19

第十四章

「やっぱり・・・」


意外とあいつはけろりとしていた。

昨日のことなんて寝たら終わり・・・?

あの様子からしたらもしかして何日間かひきずるかと思っていたけど、少し安心した。

おちこんで沈みきっている駿弥なんて気味が悪い。


「何がやっぱりだよ・・・。なぁーんか俺の事解りきった感じ」

「いや、解りきれてないけどさ」


やっぱりいつもの駿弥かもしれない。よかった。そう思う。

でも少し顔が違った気がするんだ。ほんの少しだけ・・・青色に染まったような気がする。


「人は完全に解り合えないって言いたいんだろ?あの漫画にかいてあったよー。」

「あ、そうだ」


あたしはヒュンと駿弥の顔の前でてのひらをむける。だってそうでしょ?

昨日盗まれたものを返してもらっていない。


「なんなのその手・・・」

「昨日漫画盗んだでしょ?返してください」


ごそごそと駿弥は鞄の中を探してくれている。

還る時にかなり荷物が減っていてびっくりした。

借りるならそう言ってくれれば連帯金無料で1週間ほどサービスしてあげたのに。


「ごっめん。漫画は家にある。んじゃ、今度その無料サービスでかりよっかな」

「はい・・・。で、えっとこの前何か言いかけて終わったよね・・・?」

「この前・・・?いつの事だそれ」


たしか昨日、あたしが変わったと変わってないとか・・・。

漫画の話題になる少し前の事だったと思う。

なんか気になる事を言いかけて文には出来ないと断念したアレ。

困った顔をして駿弥は・・・


「それはこの前じゃなくて昨日っての。あーあれね・・・なんというか・・・」

「いうか・・・?」

「少し、おしゃべりになったかな。良い意味でだからな。別に五月蠅いって言ってんじゃない」


そうですか・・・。

なんとなく幼いころに戻った気がする。小学生の低学年。

こうしてよく2人で喋っていたのを覚えてないっけ。


「そんなこともあったことだな」

「それ・・・日本語ですか?」

「ちょっとぉー駿弥ぁ」


話しに入ってきたのは朱。昨日と同様なにかさせられるのかな・・・なんて。

こっちに来たと思ったら駿弥の腕をぐいぐいとひっぱって教室の隅に連れて言った。

聞かれてはならない大事な用ってやつか何かかな。

2人とも仲直りしたんだ。よかった。


「何の話してたの?」


ほら、このあたしが疑問形の文を連発するのは希少価値な光景であるのだよ。

でも、そんなことどうでもいいような顔をして駿弥は


「あー、何でもない」


そう言ってくるりと前を向いてしまった。

やっぱりこては外に漏れてはならぬ機密情報なのか・・・。



次の時間は体育だ。

運動なんて全く出来ない。

小さいころから身体を動かすのってすごく苦手でやらないうちにこんなに駄目駄目になってしまった。

以前言ったように握力はもうログアウト状態で、どうかしたら足の方が強いかもしれないね。

測ったことなんてないけどさ。


「ほーらあずちゃんパッス!」

「はいっ」


蓮華とキャッチボール。

ずっとボール投げじゃつまんない人もいるだろうけどこれは救われる。


「もっとキビキビ動きなってっ!!」

「あー、はい」


あたしは昔から運動音痴だし、生まれつきの喘息でマラソンなんかできやしない。

いつも無理矢理身体を動かしているけど、体育の時間は憂鬱だ。

勉強ならやればなんとかできるけど、これだけは・・・。


「うおりゃあぁっ!」

「うわっ」


蓮華の右手に持たれたバスケットボールがすごい速度であたしの顔面すれすれを横切った。

今のは吃驚した・・・。額から冷たい汗が漏れ始める。


「ごっめん、大丈夫だったっ!?ちゃんと取ってくれると思ったんだけどなっ」

「無理ですよ・・・。恐かったぁ」


空気を走って行ったボールは壁にぶつかり方向転換。

軽やかに弾んでいた・・・。あれ、あそこに見えるものは・・・?


「蓮華、ボールとってくんねっ!」


確かにそうだ。遠すぎて良く見えないけれどあれは・・・。

そうかそうだったのか。昨日の出来事を頭の中で整理する。

そうか。そうだよね・・・。あたしだけのものでは・・・。

もうゆっくりはできないんだなぁ。そう思うととても心が冷えてくる。


「ちょ、ちょっと・・・大丈夫っ!?」


足元が冷たいと思ったら、体育館にペタンと座り込んでいたらしい。

蓮華の鋭い声で目が覚めた。冷え切ったあたしの身体。


「ほーわっと、いっくよ――っ!」

「あっ・・・」


ゆっくりと山を描いて向かってきたボールだったが、足がうまく動かなくてとりそこなってしまった。

こんなことで・・・。だめだよ。しっかり立たないと。


「ちょっとぉ。どーしたっ?また頭痛いのっ?」

「あ・・・うぅん。ちょっとね・・・」


この時間の間はずっと心の中を彷徨っていた。

立ち止まっていた。だってなんかすごく寂しい風が吹き荒れていたから。

この気持ちはきっとそれほど・・・だったのだと思う。

こんな思いをしたのは初めて。それもあたしが今まで消極的だったからなのかもしれない。

こんなに深入りしたのは初めてだったからなのかもしれない。

やっぱりそうなんだなと改めて思うと悲しくて仕方がなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ