第十二章
「んしょと・・・」
重たいので、両手で抱えて家を出る。
よく考えたら、これじゃ扉の鍵が閉めれないじゃないか。
というわけで一度下に荷物を置く。鍵を家の中に忘れた。
「あ・・・うんっと・・・」
扉があかない。当たり前だ。扉の前には重たい漫画の山の詰められた袋が堂々とそびえたっているから。
無理矢理足でぐいぐい押して、なんとか扉の前から移動させると靴も脱がずに膝だけを使って鍵を取りに行った。
タイムロス?そんなものは気にしない。
「いってきまぁす!」
重くて走れない・・・まったくだ。
あまりにもそれは持って行きすぎじゃないかって?いやいや。
だって駿弥はこの漫画、読むの早いし。駿弥が希望した漫画は少年向けだから朱が・・・ってことで女の子向けのも3冊ほど詰めてきたのさっ。
信号待ちはあたしの腕を縛りあげる。
止まっているとよけいに荷物の重さを感じるのだ。
そんなことをいくらほざいたって居るかもわからない天のお父様は車をなくしたりはしない。
あれ・・・でもこれじゃあたしがキリスト教信者みたいじゃないか。一応仏教の人なんですけどね。
朱の家は一軒家。2階建。
家に入れば、幼い妹たちがお出迎えしてくれた。
「わー、あずちゃんあずちゃん!いらっしゃーい」
「いらしゃーい」
小学校低学年の娘と、大体3歳くらいの女の子。
2人とも若干朱に似ているような気がする。
「え・・・あ・・・ごめ・・・・・・き・・まっ・・・」
扉の奥から、朱の声が聞こえる。
小さすぎてなんていってるかはよく聞き取れない。
すると扉ががちゃりと開いた。
「いらっしゃーい。あ、もう駿弥もきてるよぉ」
「おじゃまします」
綺麗に片付いた部屋。落ち着いた壁の色。
そして可愛くて愛らしい小物達。
そのちょうど真ん中に駿弥は座っていた。にあってねぇ。
「・・・・・・」
黙って静かな空気である。
昔からの悪い癖で、こういう空気の時笑みがこぼれてしまう。
普段なかなか笑わないのにこう言うときだけ噴き出してしまう。小さいころからそうだった。
朱は身体をゆーらゆらとさせている。若干にょこにょこと動いているみたい。
それに合わせるかのように駿弥まで動いている。
「あー・・・で、あずあの漫画持ってきたんだろ?貸して」
「はい・・・5巻からでいいんだよねっ・・・?」
「2人で手を取り合ったところから・・・だったと思う。そうそう、表紙はこれだった」
駿弥は逃げるようにしてあたしの隣に座る。
何があったのだろう。喧嘩でもしたのかなーなんて思いながら・・・。
でも、ちょっと寄りすぎな気がする・・・。
もう耐えられなくて、ちょっとだけ左へ移動する。そしたらその行く手には・・・
「あー、朱もっ・・・かか、貸してもらうねぇ・・・」
やっぱり何かあったに違いない。
これは失礼だよなぁ。退散しようかなぁとあたしは思った。
というわけでちょっと退室させていただく。
「ごめん、ちょっとトイレ借りていいですか・・・?」
「はいぃー。どうぞぉー」
とりあえず違う部屋へと移動した。
生ぬるい廊下。扉に耳を当てていたが、やっぱりそう聞こえてくるもんじゃないね。
「ごめ・・・い・・・なら・・ん・・・よ・・・ら・・・・き」
ごめいな・・・なんだっけ・・・?
やっぱり扉越しではこれが限界かな。
でも、声の感じからして喧嘩ではなさそう。
何かもめごとでもあったのかなと心配はしていたけど・・・よかったよかった。
せっかくなので、お手洗いも借りて部屋に再び突入してやった。