第十章
ほんのこの前まであたしはこの生活をダルいものだと感じていた。
もちろん、今でもダルい。ものすんごく。
でも、ダルいけどこの生活ではないと出来ない事ってのもあるんだよね。
それが大分解ってきた。それは今がこのまえよりもあたたかいものだからだと思う。
でも、あたしはできればこのままではなくて・・・求めているのも確か。
そんな事、口に出したことなんて一度もないのだけれどね。
「よーおっ」
「お早うございます」
「敬語なんか堅苦しいなぁ~・・・お姉ちゃん」
「・・・ごめんなさい駿弥ちゃん」
「なんなのそれ・・・きもちわるっ」
聞き慣れた声があたしの顔の前で流れていく。
なんだか最近妙に絡んでくるよね、駿弥って。
小学生の頃でもこんなにひんぱんに話してたのって隣の席になるくらいだったと思う。
「別にいーじゃんか・・・そんなに絡まれたくない?」
「いや・・・・・・そんなんじゃないけど、なんか変わったなって」
ここで「絡んでくるな馬鹿っ!」なんて顔を赤らめていうと可愛いんだろうなぁ。とか思いながら
あくまで素直に答える。どうしても偽るのは上手く慣れないのでね。
「誰が?・・・俺っ!?」
「そうだけど」
そろそろ時計の針も8時30分に追いつく準備を始めたみたい。
教室中の人間がいっせいに席に着こうとするせいで、机やいすの動く音が絶えない。
あと少しはこうしてのんびり話していられる。
「どこがだよ。変わったのはお前の方だろ・・・?」
「えっ・・・」
あたしが変わった・・・?
「入学したばっかの時はさ、お前・・・黙り込んで人形みたいで話しかけづらかったけどさ・・・
最近前までのあずにもどった気がするんだ。なんとなくだけど・・・良くなった」
「何が良いって・・・?」
「具体的には・・・言いにくい。というか今の俺には・・・」
どうやらあたしはこの会話の間、ずっと駿弥の目を凝視していたらしい。
目を金魚よりもすさまじく泳がせていた駿弥は一瞬こちらを見ると、ふいっと顔ごと下に向けた。
あわててあたしも目をそらしてみる。なんか嫌に思われたら恐いし
「ん、んん・・・ごめん、説明がつかないや。勘弁・・・」
「はい・・・」
その続きの言葉を聞きたかった。
何か期待をしているわけではない。まったくとは言えないけれど・・・。
唯あたし自信、どこか変わった実感がまるでない。
人に言われてじゃないと自分を見れないってのが問題なんだけどいちいち自己を気にしてちゃ歩いてはいけない・・・気がする。
「あー・・・んと、そういえばあの漫画の続き見してよ」
「あの漫画ってどれの事・・・?」
「例のあれだよ・・・なんかこの前DVDが発売されてどーとかCMが・・・」
「あーうん」
「先生きたっ!」とどこかの誰かが発したとたん。皆は机やいすを綺麗にきっちり並べなおした。
乱れたものを目撃すると注意されるかもわからないからね。
「えーと明日・・・ん、あ?やばい先生だってさ!」
くるりと回ると駿弥は背を向けて慌てて読書の本を探し出す。
あたし?あたしは本を机上に装備しておいたので何も問題はない。
適当にページを開いて熱心に読んでいるふりをする。
頬杖をつかないと首が重くて痛くなるんだよね・・・。
読書って嫌いだ。文字見てると眠いし・・・そろそろ所有している本も尽きる。
新しい本は、なるべく表紙の絵が綺麗なものにしようかなぁ・・・。