ステラ・マリス ep4-星の秘密と、少女の運命-
彼女だけに見えた、星の記憶。
それは、出会いと旅の始まりの鐘だった。
夜が来た。
草原の上で、シオンはひとり、星を見上げていた。
(……あの時、なにかが聞こえた。確かに、星が“話して”た)
星空は静かにまたたいている。けれど、今夜の星は――どこか、違う。
その瞬間、シオンの視界に「文字」が浮かび上がった。
星と星をつなぐ線、その交点に、小さく光る銀の文字。
(……読める。なにこれ、知らない言葉なのに――わかる)
“目をひらけ。星は歌う。命を、守れ”
視界が揺れる。
風が止まり、音が消える。
そして、彼女は――“あちら側”へと引き込まれた。
*
そこは、夜空のような場所だった。
まるで星々の記憶をたゆたうような、無重力の世界。
その中心に、ひとりの女性が立っていた。
白銀の髪。星の輝きをまとうドレス。
その姿は、シオンがかつて見たどんなものよりも美しかった。
「ようこそ、星詠みの少女。私はこの星――ステラ・マリス」
「あなた……この星なの……?」
「ええ。私には、声を届ける力がある。けれど、それを“聞ける者”はもう、ほとんどいない」
シオンは黙って、その言葉を受け止める。
「お願い、あなたに伝えたいことがあるの。この星が、いま――盗まれているの」
「盗まれてる……?」
「この星の命、私たちが守ってきた“記憶の鉱石”を、外の者たちが奪おうとしている。ヘリオス団と呼ばれる者たちが」
記憶の鉱石。星が記憶を宿す、大切な命の結晶。
「彼らがそれを持ち去れば、この星はやがて、死ぬわ。命を失い、声をなくす」
「そんなの、いやだ……!」
叫ぶように、シオンは言った。
星と話す少女として、いま初めて“自分の役目”を知った。
「あなたなら、この星を救える。そう、私は信じてる」
微笑むステラ・マリスの姿が、光に包まれて消えていく。
そして――現実が戻ってくる。
*
「う……っ!」
目を覚ますと、そばにはトモキとカロンがいた。
「シオン!? だ、だいじょうぶなの……?」
「ぼんやりしてて、動かなかったデス。異常バイタル反応があったのデス」
シオンはすぐに、ふたりに語り始めた。
この星の記憶のこと。
盗まれている鉱石のこと。
そして、“ヘリオス団”という存在について。
話を聞いたトモキは、握りしめた小さな拳を震わせながら言った。
「……ぼく、そんなのゆるせないよ。パパの研究も、鉱石を救うためにあったのに……!」
「任務への詳細な干渉は禁則事項デスが……」
「でも、わたしは知ってる。あなたも、守りたいんでしょ?」
カロンはしばし沈黙し、そして小さくうなずいた。
「了解。作戦“星の命”を、優先行動に設定」
「よし、じゃあ決まり!」
シオンはにっと笑い、空を指差す。
「この星、ステラ・マリスを、私たちで救おう!」
こうして、3人の小さな旅が始まった。
「星を救う」。
それは壮大で、無謀で――でも、誰かがやらなければいけないこと。
次回――
『第5話:ミッション開始!泣き虫とロボと星詠みと
』
子どもとロボットと、星詠みの少女。
3人の旅が、森の奥で正式に始まる!
どうかお楽しみに。




