番外編 -ごはんをつくろう、宇宙のどこかで-
ミラージュの試練を超えたシオンたち。
ひとときの静寂と、ぽっかり空いた時間。
そんな時こそ、心と体を満たす大切なものがある。
……そう、ごはん、である。
宇宙船の中は、静かだった。
いつもなら機械音や誰かの声が響く船内も、今はまるで一息ついたように眠っている。
そんな中、船内スピーカーが軽く振動するような声で、ぼやきが聞こえた。
「……おなか、すいたぁ……」
声の主はトモキ。工具ポーチを抱えたまま、テーブルに顔を押しつけている。
「じゃあ、さ――料理でも、しよっか?」
ぱちん、と指を鳴らして立ち上がるのはシオン。目が輝いている。
「えっ、今から?」
「今だからだよ。みんなミラージュで頑張ったんだ、胃袋から元気にしなきゃ!」
——かくして、宇宙船での料理大会が始まった。
***
まず、材料を並べたのはシオン。
「わたしが作るのは、ステラ・マリスの郷土料理――《星の潮粥》!」
海の恵みを使ったやさしい粥。ほんのり青く輝く出汁の色に、カロンが目を細める。
「懐かしい香りデスね。これは、母上の味デスか?」
「うん。お母さんが、テストの前に作ってくれたの」
そう言って、シオンはそっと鍋をかき回す。柔らかい表情だった。
「シオンは料理もできるんだな」
ユーリも優しく微笑む
続いて現れたのはトモキ。
「オレはこれっ! エレキ星名物、【超!高電圧チャーハンZ・スペシャル(失敗しても爆発しないver)】!」
「……なんか危なそうなんだけど!?」
「大丈夫大丈夫、パパの改良型だし! ——うおっ!? ちょっと煙!?」
ドタバタしながらも、できあがったチャーハンは意外と美味。トモキがちょっと誇らしげに笑う。
「パパと初めて一緒に作った料理なんだ〜……ほんとは、また一緒に作りたかったけど……」
少しだけ、寂しげに目を伏せるトモキ。シオンは優しく笑って、チャーハンを口に運んだ。
「美味しいよ、トモキ!」
その次に現れたのは……カロン。
「私のターンデス。名付けて、《栄養素バランス完全制御スープ3.1》!」
見た目は銀色、匂いもなし、味も……まったくしない。
「……え、カロン、これ食べ物……?」
「問題ありません。空腹指数を80%削減可能デス」
「でも心が満たされないよ!!」
最後に、ユーリが静かに皿を出す。
「これが……私の星の料理。《黒薔薇のパイ包み》だ」
見た目は芸術。香りも高貴。……だが。
「ひゃ、ひゃあああ!! からぁあああっ!? なにこれ!? なにこれ!? ユーリ!? これ料理!?」
「鍛錬の一環として食べていた……食すことで、精神統一ができる」
「これ修行じゃん!!」
***
しばらくして——
食卓には、それぞれの「星の味」が並べられた。
みんなが笑っていた。肩を並べて、ごはんを食べていた。
不思議と、ミラージュでの疲れが、癒やされていった。
「また……みんなで作りたいな〜」
トモキが呟くと、ユーリが優しく返した。
「そうだね」
「この感情……たのしい……に近いデス」
カロンもどこか満ち足りたように言う。
そして、シオンが、笑う。
「次は、星の市場とかで食材を集めて……もっといろんな味を知りたいな!」
その言葉に、誰もがうなずいた——その時だった。
ピピピッ。
通信ランプが点滅する。
「緊急通信……エレキ星から?」
カロンが分析を始め、画面に一人の女性研究員が映る。
『至急連絡します。……マサキ博士が、エレキ星政府によって——逮捕されました。』
空気が一変する。
それぞれの顔から、笑顔がすうっと消えていく。
——そして、シオンの目が、真っ直ぐに前を見据えた。
「……行こう。マサキ博士を、助けに」
(番外編・終)
旅の途中、こうして仲間と笑って食卓を囲むこと。
それが、何よりの力になることもあります。
それぞれの星の味は、それぞれの物語。
小さな料理の時間が、みんなの過去と未来をつないでいくのです。
そして、彼らの旅は次の章へ——
『エレキ星編』、始動。マサキの過去と、囚われた理由とは?




