ミラージュ Ep.6-もう仮面はいらない-
――この星は、幻を見せる。
それは自分自身が隠してきた「痛み」であり、「罪」であり、そして「願い」でもある。
今回の主人公はユーリ。
仮面の奥に隠された、彼女の記憶と想いが、静かに、しかし確かに揺れ動きます。
彼女が守れなかったもの――
そして、これから「守ろう」とするものへ。
それでは本編、どうぞ。
「……出てこい」
静かに剣を構えながら、ユーリは己の影に呼びかけた。
霧のような闇の中に、ひとつの姿が浮かび上がる。鋭い眼光。真紅の装束。
それは彼女の記憶に深く刻まれた人物――レクサス・リ・ユニオン。
「レク隊長……」
呟くと同時に、かつての記憶がフラッシュバックのように押し寄せた。
若かりし頃のユーリ。まだ未熟な剣士だったあの頃。任務の最中、包囲され、動けなくなる彼女。
そんな彼女を救ったのは、剣一本で現れた、あの人だった。
「無茶をするな、ユーリ!」
「……レク、助かった」
ふたりで背中を預けて戦い、敵を蹴散らす。そんな光景の後――。
突然、レクが振り返り、ユーリに剣を向ける。
「レク!? なぜ――」
ユーリの剣が咄嗟に動く。
そして――気がつけば、レクの胸に剣が突き刺さっていた。
「……守れなかった。私は――」
鏡のような空間に立つ現在のユーリが、苦い顔で呟く。
その瞳に、あの日の血の赤が映る。
「……あの時の私は、弱かった。だから、守れなかった」
鏡にヒビが入る。パキン、パキンと音を立てて。
ユーリは静かに仮面を外した。
鋭く、まっすぐな視線。冷えた剣のような美しさを持つ、素顔のユーリがそこにいる。
「だけど今の私は、もう迷わない」
剣を構える。
「今度こそ……守る!」
その言葉とともに、鏡が粉々に砕けた。
幻の世界が消えていく。立ち込めていた霧が晴れ、空が見える。
「……シオンを探さなくちゃな」
目を細めて歩き出したユーリの前に、声が響いた。
「ユーリさん!」
駆け寄ってくるトモキとカロン。
二人とも、少しだけ照れくさそうに頭を下げる。
「さっきは……ごめんなさい、デス」
「ボクも……ひどいこと言っちゃってごめんなさい」
ユーリは、ふっと微笑んだ。
「なんのことかな?……忘れてしまったよ」
目を丸くする二人に、背を向けて手を振る。
「さあ、行こう。シオンが待ってる」
風が吹き抜ける。
かつて心を覆っていた仮面は、もう彼女の顔にはなかった。
ミラージュの試練、最後の一人は「ユーリ」でした。
戦士であり、監視者であり、そして仲間である彼女の胸の奥にあったのは、「過去に守れなかった痛み」。
しかし、痛みを知っているからこそ、彼女は人を守ろうとする。
それは、どこかでシオンにも、そしてカロンやトモキにも通じる感情です。
次回はいよいよシオンが登場。シオンが向き合う影とは、彼女の持つ悲しみの一面に触れる話をお楽しみに




