表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星詠みのシオン  作者: ray a life
幻視の星ミラージュ
24/36

ミラージュ ep5-影に咲く、誓いの刃-

守ることと、壊すこと。

それは刃の両面のようなものなのかもしれません。


今回は、ロボット・カロンの記憶に眠る“人間だった頃”の物語。

彼が背負う過去と、守る者としての覚悟が描かれます。


「……ここは……?」


ミラージュの幻影に囚われたカロンは、ひとり静かな廃墟に立っていた。

空は鈍く灰色に曇り、血のような赤い雨が降っている。


──コツン。


足元に転がるナイフ。手に取ると、かつての手の感覚がよみがえる。


「これは……私が、人間だったころの……?」


場面が変わる。目の前に広がるのは、豪奢な寝室。

シルクのシーツ、煌びやかな照明。そしてベッドに横たわるのは──男。

眠る間もなく、喉元にナイフが突き立てられる。


カロンの目が見開かれる。


「これは……私が殺した……!」


次に映るのは、酒と煙草の匂いが染みついたマフィアの本拠地。

暴力に溢れた笑い声、銃を片手に笑うボス。

そこにも、ナイフ一本で忍び込み、彼は静かに、正確に心臓を貫いていた。


──ただの仕事。命令通りに。


けれど、それだけでは終わらなかった。


小さな子どもが泣いている。中華マフィアの幹部の娘。

「見逃して……」と泣く彼女の瞳。

でも──彼は刃を下ろした。


「やめろ……見せるな……」


幻影の中で、ロボットの体を持つ今のカロンが、膝をつく。

しかし、ミラージュの声が頭に響く。


『そんなお前が守る? 笑わせるな。お前は、壊す者だ』


「……私は……」


罪の記憶に押し潰されそうになったその時──


ふと、遠い記憶がよみがえる。


──雨の日。

びしょ濡れの公園。

泥にまみれ、ゴミのように捨てられていた彼に、一本の傘が差し出された。


「なんだこのボロ雑巾みてぇなやつは。……おい、大丈夫か?」


その声の主は、マサキだった。


「施しなど必要ない……私は、もう処分されたアサシンだ……」


冷たく拒絶する彼に、マサキは笑いながら言った。


「なら、お前──これからは誰かを守って生きてみろ。……おれの息子を守れ」


その瞬間、頭に浮かぶ名前。


「……トモキ……!」


カロンは走り出す。だが──その行く手に、かつての“人間のカロン”が立ちふさがる。


黒いスーツにナイフを構えた影のカロンは、無言で突撃してきた。

その動きは異常なまでに速く、鋭く、正確だった。


ガッ。


装甲にひびが入る。


「こんな力で誰を守る? 守れるわけがない。あきらめろ。……弱い者に、何も守れはしない」


カロンは吹き飛ばされる。視界がぐらつく。けれど──その時、また別の記憶がよみがえった。


──ある日の路地。

カロンが修理中で動けなかった時のこと。


目の前に立ちはだかる、小さな身体。


「ダメ! カロンは、まだ修理中なの! だめ! 来ないで!」


牙をむく野良犬に向かって、震えながら叫ぶ小さなトモキ。

両手を広げて、今にも泣きそうな顔で、でも後ろに下がらずに──カロンを守った。


「……あの日、私は……守られた……」


カロンの心に、確かな光がともる。


「だから……僕は、もう迷わないデス……!」


その瞬間、カロンの身体が黒く光を帯びる。

装甲が変わるわけではない。ただ、色が深く染まり、闇を纏うような強さが現れる。


影のカロンのナイフを受け止め、はじき返す。


──カン!


「守るデス。たとえ、弱くとも……守る覚悟がある限り、私は戦うデス!」


黒く染まったカロンの一撃が、影のカロンを吹き飛ばす。


影は苦笑しながら、言葉を残す。


「……あの小さな命、大切にしろよ」


そして、煙のように消えていった。


……


ミラージュの幻影空間が崩れる。


カロンはセンサーを最大限に開き、トモキを探す。


──見つけた。


「トモキ、大丈夫デスか?」


「カロン!!」


トモキが泣きながら飛びついてくる。


「さっきは、言い過ぎたデス……ごめんなさい」


「ぼくも……ごめんね! これからも、そばにいてね!」


カロンは、静かにうなずいた。


「もちろんデス。命をかけて、お守りしますデス」


「……ユーリさんにも、謝りに行かなきゃ!」


「はい、すぐに向かうデス!」


カロンとトモキは、再び一緒に歩き出した。

その背中には、かつての影すらも背負いながら──

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回は、カロンの心の深淵に迫る回となりました。


彼の罪、記憶、そして“守る”という選択は、旅の仲間たちにどんな影響を与えていくのでしょうか。

次回は、そんな彼らを守る戦士──ユーリのエピソードへと繋がります。


黒き騎士に秘められた真実が、いよいよ明かされる──。

お楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ