ミラージュ ep2-分断のはじまり-
光がゆらぎ、影がにじむ――
たどり着いたのは、幻を見せる星・ミラージュ。
事故によって不時着したシオンたちは、それぞれバラバラに行動しはじめます。
けれどこの星は、“ただの幻想”ではありません。
見る者の心を映し、試すように揺さぶってくるのです。
あなたが一番隠したいもの。忘れたいこと。
そのすべてが、ゆっくりと浮かび上がっていく。
星の囁きが聞こえる中、静かに物語の地盤が崩れ始めます。
⸻
「……シオンっ!」
声が聞こえた。
どこか遠くで、でも確かに自分を呼んでいる声。シオンは顔をあげた。
「あ、トモキ……無事だったんだね」
少し離れた岩場から、トモキが駆け寄ってくる。少し泥だらけで、髪に草がついていたが、無事なようだ。
「カロンもこっちにいるデス」
後ろから続いてカロンの姿も現れる。
やがて、岩陰からゆっくりとユーリも姿を現した。顔には少し擦り傷があるが、いつものように凛としていた。
4人は、壊れかけた宇宙船のそばに自然と集まっていた。
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「……なんか、変じゃない?」
シオンがぽつりと呟く。
「この星……空も地面も、全部が鏡みたい。目がおかしくなりそう……」
「うーん、でも着陸できただけマシじゃない?よく無事だったよ、ほんとに」
トモキは軽く笑おうとしたが、どこかぎこちなかった。
「機体チェックしますデス。あの状態からの着地、生存率4.2%デス。トモキの操縦技術、意外と優秀デスね」
「えっへん、まあね!でも、カロンだって途中でナビ止まったじゃんか!」
「センサーバイパスを担当したのはトモキだったハズデス。責任の所在を明らかにする必要が──」
「はぁ?カロンのセンサー反応がズレてたって話だよ!ねぇ、ユーリさん聞いてよ!」
「ちょ、ちょっと落ち着こう。」
ユーリが慌てて手を広げた。「誰かの責任とかじゃなくて、今はみんなで対策を考えないと。」
「まぁ、後から来た人には、わかんないかもね」
その一言が、場の空気を一気に凍らせた。
ユーリの目が、ふと曇る。
シオンは思わず「トモキ……」と声をかけようとしたが、もう遅かった。
「そっか。……そうだな」
ユーリは少し笑って見せたが、それはどこか寂しげだった。
「船の周囲、偵察してくる。」
「まって、ユーリ!」
シオンが思わず追いかけるが、ユーリの足取りは速く、すぐに白い霧の向こうへと消えてしまった。
⸻
「ちょっと、トモキ……今のは言いすぎデス」
「うるさいなっ……!言ったって仕方ないじゃん!」
トモキは顔をそむける。
「感情的になると判断力が落ちるデス。今は落ち着いて──」
「もういいってばっ!カロンのくせに、うるさい!……ほっといてよ!」
ふんっと言って、背を向けて走り出すトモキ。
「トモキ、まってデス──!」
カロンもすぐに追いかけるが、トモキは振り返りざまに言い放つ。
「こないでよ……っ。カロンが、ついてくると、余計……余計しんどいよ!」
その言葉に、カロンの動きが止まる。
ひゅう、と星の風が吹き抜ける。
誰もいなくなった船の周囲。
気づけば、さっきまで一緒にいたはずの仲間たちは、それぞれ別の方向へと散っていた。
そして霧の中、ひとつ、またひとつと“鏡のような影”が静かに現れていた──
ミラージュの本当の怖さは、敵が見えないこと。
この星の“敵”は、外ではなく、心の奥にひそんでいる。
仲間とのすれ違い、焦り、迷い。
少しずつ、でも確実に、登場人物たちの心に変化が訪れます。
そしてトモキは、怒りのままに一人歩き出してしまいました。
それが何を意味するのか――
次回、その答えが描かれます。
静かに、でも確実に、幻は彼らを包みはじめているのです。




